Z fcのキットレンズとして入手した単焦点レンズ「NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)」を3ヶ月ほど使ってみたので、感じたことをまとめておきます。
Z fcのためだけに作られたオールド“風”レンズ
本レンズはZマウントレンズのデザイン文法からは外れ、Z fcの外観にあわせたクラシカルなデザインに仕立てた「スペシャルエディション」です。名称からも想像が付くように「NIKKOR Z 28mm f/2.8」というレンズがベースとなっており、その外装だけを変更したものなので写りは通常版と同じ。ちなみに、「Z fcのキットレンズ」というイメージが先行しすぎて誤解されているかもしれませんが、DXフォーマット(APS-C)専用ではなくFX(35mm判フルサイズ)にも対応しています。
なお、不安定な状況のなかで最注目機種だったZ fcのための専用レンズを優先的に出したため、実はスペシャルエディションのほうがノーマルより1ヶ月ほど先に発売されました(スペシャルエディションは2021年11月発売、ノーマルは2021年12月発売)。Z fcとのセットだけでなく単品でも一応購入でき、ノーマルが3万円弱、スペシャルエディションが3.5万円ぐらいです。
オールドレンズのようなデコボコしたローレット、シルバーラインなどはまさにZ fcに似合う仕様。マウント径の大きい最新規格のレンズですから、単体のルックスから想像するよりもけっこう大きい(外径70mm以上)とか、外装からマウントまで全部プラスチックで軽すぎて手に取ると「あれ?」ってなるとか、色々言いたいことはありますが……まあ軽いのは実用上良いことですからね。160gしかないんですよ、これ。
ほぼZ fcユーザーにしか売れないであろう別バージョンを、ただでさえレンズの供給に苦労している時にわざわざ出してくれたこと自体が称賛に値するでしょう。ただ、フードは作って欲しかったですね。スペシャルエディションに限らず、ノーマルも含めて存在しないのはどうかと思います。
NIKKOR Z 28mm f/2.8(Special Edition)の作例
作例ってほど大層なものではないのですが、ここからは実際にこのレンズで撮った写真を見せながら話しましょう。リンク先のFlickrにはこの記事に載せていないものも何枚か上げているので、良かったらそちらも見てみてください。
まず誤解を恐れずに言えば、見た目以外は特別どこがいいとか悪いということはない、平凡でつまらないレンズです。でも、これでいいんだと思います。軽快で思い立ったらすぐに撮れて、目立った欠点やピーキーな部分があるわけでもありません。結局、肩肘張らずにいつでもどこでも持っていって撮れる“普段着”の機材のほうが、防湿庫にしまい込む一張羅の機材より撮れ高はいいんですから。
Zマウント初期の、設計自由度の高い最新マウントの威力をこれでもかと見せつけて後発ポジションから巻き返すべく本気で作られたすごいレンズたちを見てきた身としてはそりゃ「つまんねーな」と思ってしまいますが、この28mmにしても40mmにしても、もうZマウントは最初の山場を乗り越えて良くも悪くも「普通のレンズ」のラインナップを固める時期になったんだなと思えば喜ばしいことです。
本当にクセのない優等生レンズで、Z fc自体の軽さとも相まって適当にブラブラ歩きながらなんとなく撮るには良いです。手ぶれ補正こそありませんが、28mm(換算42mm)程度ならおかしな構えをしていなければ問題ありません。
これを書きながら思い当たる弱点を必死に絞り出してみましたが、「逆光にちょっと弱い(フレアが出やすい)」「周辺減光がちょっとある(FXでも一応使えるけどメインはやっぱDX用かな)」「点光源の玉ボケはあまり魅力的ではない」ぐらいでしょうか。
所有欲を満たすような質感もなければ、感動するような表現力があるレンズでもありません。でも、そういうのを求める目の肥えたオタクや老害ニコ爺はNOKTONでも買ってればいいんですよ(私は買う予定です)。
でも、見た目でZ fcを選んだ人(カメラを扱い慣れていない人)の最初の1本としてはベストだと思います。せっかくZ fcのルックスが気に入って買っても、現代的で味気ない普通のZのレンズの外装では台無しでしょうし、だからといって本物のオールドレンズを付けたらワーキングディスタンス的にこんな風に料理を撮るのも苦しく、オートフォーカスだって使えませんからね。
基礎を身につけるには良いレンズだと思いますし、「なんかそれっぽい見た目」に「安くてまともな現代レンズの中身」という組み合わせは無難で間違いないでしょう。