惜しまれつつも生産終了が決まり、最終ロットの争奪戦や中古相場の高騰も記憶に新しい「S660」。そんな貴重な本格軽スポーツカーをカーシェアの「カレコ」で借りられると知り、乗ってきました。
カレコでS660が配備されているステーションは、新宿サブナード 地下駐車場、ららぽーと豊洲の2ヶ所。車の特性を考えて郊外のワインディングロードで乗ってみたかったので、西側に出やすい新宿発にしました。
車種料金はプレミアムクラスになるので、普通のカーシェアにあるようなコンパクトカー(ベーシッククラス)と比べると倍ぐらいの料金はかかりますが、一応お得な夜間パックなども選べるクラスなので6,000円前後でじっくり乗れます(※最上位クラスだけは夜間パックがない)。
ただし、カレコは夜間パックでも6時間を超えるとそれまでの分も含めた距離料金が一気にのしかかってくるので、一晩借りて遠くまで行くのは難しく、6時間に収めざるを得ないのがちょっと惜しいですね。
軽く内外装のチェックだけ済ませて、いざ出発。どう見てもカーシェアにはなさそうな車なだけに、カレコのステッカーが良い味出してます。
軽オープンスポーツのなかでもだいぶ本格志向の車なので、地面に座っているような低いドライビングポジションではありますが、こういう低い車に乗せてもらう機会がそこそこあった人からすると想像よりも乗り込みやすい印象でした。軽枠に収まるサイズなのでサイドシルがそんなに厚くないあたりが理由でしょうかね?
あと、どう見たって車内は狭いはずなのに、一度座ってしまうとそうでもないんですよね。エンジンが後ろなおかげで(運転席は)足元も広く、ペダル周りも窮屈な感じはしません。ちょっと助手席が犠牲になっているのかもしれませんが、まあこの車は1人乗りみたいなもんですからね……そもそも2人乗ったら2人分の手荷物すら置けませんし、助手席は実質トランクです。
メーターは回転数以外すべてデジタル表示。正面からの写真ではわかりませんが、中央のスピードメーターの部分だけ手前に向かって筒状に飛び出していて立体感のある作りになっています。
白くライトアップされている時はノーマルモードで、スポーツモードにするとやる気の出そうな赤に変わります。左側の燃費計もしれっとブースト計にチェンジ。
ひとまず、一般道で渋滞にハマりながら都心脱出を目指します。km単位で続く単調な直線をノロノロ進むだけの元気に走れない場面では欠点ばかりが目立ち、序盤はテンション下がりまくり……良くも悪くもいろいろとダイレクトに伝わってくるので賑やかですし(っていうとエンジンがうるさいのかな?って思われそうですがそうじゃないんですよ、もっといろんな音がします)、乗り心地もまあまあハード。よく曲がることの裏返しで直進安定性もあまり良くありませんし、のんびり快適に流すのは無理ですね。
官能的なエンジンならごほうびでも、決して面白くはない3気筒の実用エンジンが頑張ってる音を間近で聞いてもねぇ……カーシェアなのでMTではなく誰でも乗れるCVTだということもあって、ただボワーっと苦しそうに唸っているだけという感じ。それでも多少スポーツカーらしい雰囲気の音にも配慮されており、アクセルを抜くとブローオフバルブらしき音がはっきり聞こえてくるのはちょっと愉快かも。
郊外への退屈な道中で感じてしまった不満点は他にもいくつかあり、「スポーツモードにする以外、邪魔なアイドリングストップを切る方法がない」「スポーツモードでパドルシフトを使うと、モードを切り替えるまでは自動変速に戻らない」あたりは手間だなと感じました。楽しさの裏返しの手間なら大歓迎なのですが、こういうただ単に抜けてる感じのはちょっと。
あと、ダッシュボード上に設置されている純正ナビは路地などに入ると使い物にならないぐらい反映が遅くイマイチでした。設置場所の都合で悪目立ちするし、これならスマホで済ませちゃうな~。
意外とネガティブな第一印象を受けながら1時間半ほど進むうちに、だいぶ郊外に出て道も空いてきました(時間的にも)。ここらで一旦休憩ということで下車。
この車、最低地上高はともかく全高に関してはNSXよりも低く、たったの1,180mmしかありません。もちろん最近の国産市販車では一番。平均身長程度の成人男性の目線からでも、このように俯瞰で撮ったかのようになってしまうぐらい異常に低いです。
フロントは意外とシャープすぎず愛嬌のある顔つきですが、リアは文句なしにカッコいいですね。ミッドシップならではのエンジンフードも目立ち、小さなスーパーカーという感じの雰囲気です。
さて、せっかく車を停めたので幌を開けてみましょうか。説明書を見ながら……と言っても実はとても簡単。左右のロックを外して中央に向かってくるくると巻いてから持ち上げれば終わりです。
同じタルガトップ型のロータス・エリーゼの開閉を見せてもらったときは幌とは別パーツの骨の着脱なんかがあってちょっとめんどくさそうだな~と思いましたが、これなら「左右から巻いて取るだけ」「真ん中において広げるだけ」なのであっという間に着脱できます。まあ、外した幌を出し入れするためにどこかに停めないことにはどうにもならないのは同じなんですが。
さてトランクに幌をしまおう、と思って運転席のレバーを……引き間違えました。間違えついでに開いてしまったエンジンルームをチェック。詰まってますね~。頭の後ろのバーに実はエアインテークが組み込まれていたり、よく考えられています。低排出ガス云々のステッカーで埋まってしまうぐらい小さいリアウィンドウには笑ってしまいました。
気を取り直してフロントを開けます。エンジンが後ろにあるから前はトランクかって?いいえ。ボンネットを開けて、中央にある黒い細長い箱の中だけが収納スペースです。そしてこれは外した幌を入れる場所でもあるので、オープン時は完全に収納がなくなります。
オープンといっても頭上部分だけが外れるタルガトップなので、視覚的な開放感はそれほどありません。変わるのは風と音だけですね。あとは乗降性も良くなるので、まだ潜り込むコツが掴めていない人はおそらく開けたほうが乗りやすいでしょう。
個人的には、「S660の走りは魅力的だけど、申し訳程度のオープン要素は別に要らないな」という感想。もし買うなら社外のハードトップとか付けて閉めっぱなしにしちゃうかも(幌を捨てれば申し訳程度のトランクも空きますし)。
そうそう、風といえば、S660には開閉できる窓が3つあります。左右の普通の窓のほかに、リアウィンドウ(ヘッドレストの間にある小さいやつ)も開けられるんです。色々試しながら走ってみましたが、ここの開閉はけっこう効果が大きいですね。
エンジン音をカットしたい時はここを閉めるだけでだいぶ静かになりますし、オープン時に頭上の風の流れを変えるのにも便利。個人的に気に入った使い方としては、幌を外した状態で左右の窓は上げてリアの小窓だけを開けると、いい感じに頭上から後頭部にかけて風が吹いて頭がシャキッとしますし、それでいて三方を囲まれた空間に後ろからエンジンの熱が伝わってきて首から下は温まります。露天風呂みたいで気持ち良いです。
目的地・奥多摩の山奥を駆け回った感想としては、とにかくよく曲がり、路面や車の挙動となんの壁もなく会話できる車。実用性は二の次でかなり割り切られていることはここまでの内容でお察しでしょうが、そこまでしてすべてを走行性能に割り振っただけのリターンは十二分にあります。
とは言ってもエンジンは至ってフツーの実用軽自動車譲りですし、ガチガチの作りなので小さい割に車重は決して軽くありません(830~850kg)。直線勝負なら全然速い車じゃないんです。でもそこがミソで、そこら辺の交差点ひとつ曲がるだけでも笑顔になれる車です。車高が異常に低いおかげで体感速度も速いのでしょう、制限速度内で田舎道を流すだけでもスポーツ走行のような気分だけが味わえます。
基本的にこの車はコーナリングマシンであって、エンジンが気持ち良く回るとかパワーがあって速いとかではないので、そういう意味では「絶対MTじゃないと楽しくない」みたいなことはないですね。走る・曲がる・止まるの三要素で言えばどう見ても「曲がる」が醍醐味で、CVTだろうとそこの楽しさは変わりませんから。
軽オープンスポーツにも色々ありますが、S660は限りなくストイック。気持ち良く流せるオープンカーを求めて買う車ではなく、たまたま屋根が外れるようになっているスポーツカーという塩梅ですし、そこの認識にズレがあると手に余るかもしれません。現行車で比べられることの多い「コペン」なんかは対極の存在で、ちゃんと考えたらそもそも比較対象ですらないように思います(あっちはある程度普通に乗れると思います)。
個人的にはこういう車はすごく好き。いろんな意味で余裕があったら欲しいですね。