「Nikon Z fc」レビュー:入門者じゃなくても欲しくなる美形入門機

カメラ

一時はどうなることかと思いましたが、なんとか息を吹き返しつつあるように見えるニコンのカメラ事業。とはいえ、(今はどこのメーカーもそうですが)カメラもボディも細かい周辺機器も品不足が深刻で、買って応援したくてもできない状況です。

そんな中、ニコンのカメラとしては久しぶりのヒット作といえるミラーレス一眼「Z fc」を昨秋になんとか入手し、いろいろあって年明けぐらいから使い始めて数ヶ月経ちました。ここらでそろそろ評価しておこうと思います。

「Z fc」ってどんなカメラ?

Z fcは、フィルム時代の一眼レフカメラのようなクラシカルなデザインが特徴のミラーレス一眼カメラです。2021年7月に発売され、ボディ単体の価格は実売11万円ぐらい。

外観は「FM2」という実在のニコン製一眼レフをモチーフにしており、中身はDXフォーマット(APS-C)のZマウントミラーレス「Z 50」がベース。また、見方を変えれば、2013年に発売されたクラシックデジタル一眼レフ「Df」のコンセプトを受け継ぐ機種でもあります。知らない人には「かわいいカメラ」、知ってる人には「懐かしいカメラ」ということで、カメラ女子からニコ爺まで飛びつく異例のヒット作に。

スペックをざっくりおさらいしておくと、センサーは総画素数2151万画素/有効画素数2088万画素。位相差/コントラストのハイブリッドAFで、フォーカスポイントは209点。EVFは0.39型約236万ドット。バッテリーはEN-EL25を採用し、撮影可能枚数はEVF使用時約310枚/モニター使用時約360枚。サイズは約134.5×93.5×43.5mm、重さは約445g(バッテリー/SDカード込み)/約390g(本体のみ)。

物理ダイヤルを中心とした操作体系に変わっていることを除けば基本的にZ 50と同等ですが、充電端子はmicro USBからUSB Type-Cに変更されています。これだけはマジで重要。

中身はエントリーモデルなので決して高性能な機種ではないものの、「初カメラで右も左も分からないから問題が出ない層」と「おもちゃ/コレクション/防湿庫の肥やしとして買ってるから問題ない層」の両極端に好まれているので、それで十分なのかもしれません。私はどちらでもありませんしバリバリ使っていますが、まぁ腐ってもZマウントのカメラなのでそれなりに戦えます。

外観や操作性をチェック!

まずは、Z fcを語る上では外せない外観からチェックしていきましょう。

正面から見ると、THE カメラという感じの佇まい。よく見るとZマウントシステムの性能を支える最新規格の巨大マウントのおかげでサイズ感がよく分からなくなってきますし、その影響でエプロンがほぼなく妙にシンプルですが、ぼんやり眺めてみればレトロでかっこいいカメラです。富士フイルムのX-Tシリーズあたりにも似ているように見えて、小ぶりな三角屋根のおかげで更にフィルム一眼っぽさが出ているかと。

あくまでデジタルカメラですから、裏返すとオーソドックスなボタン配置の操作系が現れます。どこかのメーカーみたいに見てくれ重視でむやみにボタンを減らしたりはしません。

何気にニコンのカメラにおいては特別な「丸窓」が与えられているのも雰囲気に合っていますね。

ただし、あまり背面を隅々まで見ると魔法が解けてしまうのでほどほどにしておきましょう。Dfのような純粋な道楽のためのカメラではなく、あくまで「お色直ししたエントリー機」なので、よく見ればチープ。実は上下の銀色の部分のうち本当に金属なのは上だけですし、背面のボタン周りやヒンジ周りは安っぽい地色にテカったプラです。ま、雰囲気を味わうおもちゃですな。

スチルカメラが動画屋のためのものになっていくことに日々怒りを募らせている筆者としては、本来バリアングル液晶なんてものはその時点でどんなカメラでも購入候補から外してしまうぐらい大嫌いな、中指を立てたくなるカス装備です。チルトにしろクソ!!!

でもZ fcに関しては、液晶を裏返すとモニターが無くなってフィルム一眼っぽさが増してちょっといいなと思ってしまっています。X-Pro3みたいなのは過激すぎますが、これぐらいなら雰囲気と実用性のバランスが取れていて悪くないかなと。まあ、本当は普通にチルト液晶がいいですけどね。

ちなみにモニター裏の革っぽい部分はただのモールドなので、プレミアムエクステリア(張り替えサービス)を使っても黒のままです。前面の張り革部分の上下や背面のボタン周りなど黒い部分がたくさん残る以上、どうしても半端な見た目にしかならないのが個人的には嫌だったので(X-E3の限定色ブラウンを思い出す)、プレミアムエクステリア無料権(※受付終了)は行使せず黒のまま使っています。

デジタル一眼レフベースでどうしても厚みに無理があったDfと比べると、薄いミラーレスをベースに作られたZ fcはとても自然でしっくりくるフォルムです。Z 28mmや16-50mm、あるいは社外のNOKTON Dシリーズのような小柄なレンズを使う分には、グリップがないことはさほど気になりません。というか、グリップがなくても困らない程度の大きさまでが、このカメラの雰囲気を崩さずおしゃれに使える限度でしょうね。

私はあいにく実用機として扱っているので、似合わないズームレンズを装着する日も多く、その時はエクステンショングリップを着けるようにしています。純正品もありますが、1/3の値段で見た目もイケてるSmallRigのグリップがおすすめ。以下の記事で紹介しています。

操作性に話題を移すと、ISO感度やシャッタースピードを物理ダイヤルで設定する趣味性の高い作りになっています。しかし実はひっそりとモードダイヤル(というよりモード切り替えレバー?)があり、微妙にとっつきづらい操作です。せっかく物理ダイヤルがあるのに、「ダイヤルを合わせれば確実にこの設定になる」と信じられるわけではなく、他の設定状況を確認して動かす必要があるのは腑に落ちません。

こういう作りだったら、富士フイルムみたいにISO感度やシャッタースピードの各ダイヤルにオート位置(A)を設けて、「全部Aにしたらフルオート、シャッタースピードだけ任意の値にセットしたらSS優先オート」のようにしてくれた方が直感的で、見た目の雰囲気だけでなく実利につながると思うんですけどね。

特に「せっかくダイヤルあるのにもったいないなぁ」と思っていたのはISO感度だったのですが、実はこれにはDf時代から伝わる裏技がありました。細かい話なので、詳細は別の記事で。

Z fcで使っているレンズ

ニコンの2代目ミラーレスシステム・Zマウントの始動からはや4年近く経ちますが、35mm判信仰が強くメーカーもユーザーも偏りきった市場では需要が少なく優先順位が低いからか、DXフォーマットのラインナップはまだ貧弱です。

ボディはZ 50とZ fcの2機種だけ=ほぼガワを変えただけの実質1機種ですし、純正のDX専用レンズは16-50mm、50-250mm、18-140mmの3本しか出ていません。2021年12月版のレンズロードマップを見ると、次は24mm単焦点と12-28mmが計画されているようです。

レンズが少ないというのは裏を返せば使いもしないレンズが生えて身に覚えのない請求をかけられずに済むということで、ある意味大変ありがたいことです。私はZ fcを買ってからは、実用ズームレンズ1本と休日のお散歩用の単焦点レンズ1本しか持たないようにしています。

実用枠で使っているレンズは「NIKKOR Z DX 18-140mm f/3.5-6.3 VR」。高倍率ズームなのにそこそこ写りも良く、接写もできるとても優秀なレンズです。趣味枠のレンズとしては、最初は「NIKKOR Z 28mm F2.8 Special Edition」を使っていましたが、どうもつまらないなと思ってコシナ/フォクトレンダーの「NOKTON D35mm F1.2」に買い替えました。

レンズの話は3本とも別の記事で書いているので、あわせてご覧ください。

Z fcで撮った写真を紹介

ここからは、実際にこの半年近くZ fcで撮ってきた写真をお見せしながら、写りについてお話しします。作例はすべてFlickrに実サイズでアップロードしたものを埋め込んであるので、拡大して見たい方はリンク先でご覧ください。

20220130-170041-0

20220205-162754-0

私は元々、Zの撮って出しJPEGの良さに惚れて(何度目かの)マウント替えをしたクチです。しかし、2台目(数ヶ月使った借り物のZ 5を含めたら3台目)のZマウント機として迎えたZ fcを使い始めて、「あれ、これはダメかもしれないな」「そのままじゃ全然使えないぞ」と思ってしまいました。

見た目こそ化けていてもしょせん中身はエントリー機であることを忘れてはいけないというか、悪く言えば目の肥えていない本来のユーザー層向けのインスタントな味付けをされてしまっています。おそらくZ 50と同じチューニングなのではないでしょうか。

結局、この問題はカスタムピクチャーコントロールのプロファイルを自作して書き込むことで解決。半年近く使った現在はほぼ納得の行く状態に落ち着いており、ここで紹介している作例もほぼすべて自作CPCの撮って出しで済んでいます(トリミングだけしているものはあります)。

20220223-205828-0

20220510-162950-0

正直、ボディ(センサー)自体は画質的に秀でたところはなく、ごく平凡な普及グレードのAPS-C機でしょう。しかしZマウントのレンズにはハズレがなく、結果的にシステム全体として見ればやはり良いものが撮れます。

20220306-180252-0

高感度耐性もクラス相応なので、過度の期待は禁物。明るい色合いの被写体ならISO 3200~6400でもまあ見られますが、こういうシャドウを強調した場面ならISO 1600~2000程度に収めたいレベル。上の作例は望遠で絞りもシャッタースピードも稼げず、やむを得ずISO 5000まで上げているので、だいぶノイズが目立っています。

それほど高感度耐性が高くないこと、手ぶれ補正もグリップもなくシャッタースピードを稼ぎにくいこと、サイズ的に釣り合う明るいレンズの選択肢がないことを総合的に考えると、薄暗い時間帯のスナップにはあまり向きません(NOKTONは明るいですが、あれは開放から普通に使えるレンズではないので明るさを前提にしてしまうと表現の幅が……)。

20220429-040133-0

自作CPC以外では、モノクロ系のピクチャーコントロールが気に入りました。モノクロだけで5種類ぐらい入っていて、特に「カーボン」「グラファイト」などのとびきり重いヤツが楽しいです。モノクロスナップにハマると天気の悪い日でも写真をやれるので、これからの季節にはおすすめしますよ。

総評:「見た目だけ」のカメラだけど、Zに必要な最後のピースは見た目だった

Z fcは言うまでもなく「見た目だけ」のカメラであって、中身はあまり見向きもされなかったZ 50にほかならないのですが、元々「中身は完璧、見た目に難あり」だったのがZですから、見た目に惹かれて手に取った人に少しでも良さが伝わるなら決して悪い話ではないと思っています。

私はZ 6IIユーザーでしたから、Zマウントボディの信頼性のある作りや操作性、クリアなEVF表示、最新マウントを活かした設計で素晴らしい画質を誇るレンズたちなど、総じて優秀なシステムであることはよく知っています。手に取れば間違いなくZの良さは分かります。でも、そんな私ですら、他社からZマウントに乗り換える際に最後まで引っかかっていたのが「ダサい」という一点だったんですよ。

Z fcには新規性も取り立てて褒めるようなスペックもありませんが、ベース機種のZ 50の時点で素性は十分良いのです。おめかしして最後の1ピースが埋まったわけですから、いよいよ買わない理由がありません。

あとはそうですね……フルサイズ版Z fcが出てくるか、それでなければ次世代の標準デザイン(Z 6III/Z 7III?)はマシな見た目になることを願うばかりです。

TOP