ライカといえば言わずと知れた名門高級カメラメーカーですが、時代の流れで近年はスマートフォンメーカーとの協業も増え、かつてほど近寄りがたい雲上の存在ではなくなりつつあります。ファーウェイ、シャープ、そして最近ではシャオミと手を組み、各社のレンズ設計やカメラチューニングを監修してきたわけですが、どれも基本的にはあくまでスマホメーカー側の製品として世に出されています。
今回紹介する「LEITZ PHONE 1」は2022年7月現在では唯一、正真正銘ライカブランドのスマートフォンとして発売された製品です。発売当初は187,920円と高価な機種でしたが、発売から1年ほど経った今では多少安く買える機会もそれなりに増えてきました。興味本位でいまさら手に取ったので記録しておこうと思います。
「LEITZ PHONE 1」ってどんな機種?
LEITZ PHONE 1は2021年7月16日にソフトバンクから発売されたシャープ製の5G対応Androidスマートフォン。発売当時の価格は187,920円。ライカ初の自社ブランドスマートフォンが日本限定、それもソフトバンク独占で販売されたというのはなんとも不思議ですね。
シャープの2021年フラッグシップモデル「AQUOS R6」をベースとしているため、当時のハイエンドSoC「Snapdragon 888 5G」などを搭載し、高い基本性能を有しています。カメラはもちろんライカ監修で、1型センサーに35mm判換算19mmのズミクロンレンズを組み合わせたもの。カメラ性能のみにライカが手を入れた他の協業製品とは異なり、外装や一部のUIもライカデザインとなっています。
外観:20万クラスの高級機にふさわしい質感
LEITZ PHONE 1のハードウェアの大部分はベース機種のAQUOS R6と共通ですが、外装はすべてオリジナル。20万円近い高級スマートフォン、そして見方を変えれば最廉価クラスの製品とはいえ、曲がりなりにもライカの看板を背負う製品にふさわしい専用外装が与えられています。
革張りではありませんが、しっとりとした手触りのマット加工が施された背面パネルは少し触っただけでは何の素材か見当もつかない独特の存在感がありますし(実は強化ガラス製です)、滑り止めの溝が彫られたアルミフレームもカメラっぽい雰囲気。価格とブランドのどちらにも恥じない高級感を放っています。
6.6インチの「Pro IGZO OLED」を搭載するフロントパネルはおそらくAQUOS R6とまったく同じですが、AQUOS R6のボディ形状に合わせて角を丸く落としてあるパネルを、上下をスパッと垂直に切り落とした形状のLEITZ PHONE 1にも違和感なく溶け込ませていますね。
ただ、画面の左右を大きく湾曲させたこの手のデザインはちょっと古いですねぇ。数年前の高級路線の機種では散々擦られたデザインでしたが、実用上の難点から廃れてフラット画面に回帰していった経緯があります。
AQUOS R6/LEITZ PHONE 1のディスプレイ端のカーブはけっこう深めなので、「画面端の発色がおかしく見える」「写真撮影時に構図を決めづらい」「持ち方によっては親指の付け根が触れてしまい、タッチ操作の反応が悪くなる」などといった今更すぎるトラブルが多発します。こんなとっくに過ぎ去ったはずの問題にまた悩まされるとは思わず辟易しました。
外観上の一番の見どころは、カメラユニットを覆うように取り付けられたレンズキャップでしょう。購入前は「スマホでレンズキャップなんて面倒くさいだけ」「実用上必要なわけがない、ただの演出でしょ?」と小馬鹿にしていましたが、これが実に良い出来で特別感を断然高めてくれています。
着脱はマグネット式なのですが、90度刻みの4ヶ所でぴったり止まるようになっているので自然と常にロゴの向きがビシッと揃った状態で持ち歩けますし、レンズキャップを付けた状態からちょっとひねってやると反発してキャップが浮くため、スッと外せるのもスマート(一応、爪を差し込んでまっすぐ外すためのすき間も1ヶ所あります)。
それから、画面サイズ6.6インチ/本体重量約212gとお世辞にも扱いやすいとは言えない大型機種ですが、持ち手の人差し指にレンズキャップを引っかけるように持つと少し体感重量を軽くできるという意外なメリットもありました。
スペック・動作:中身は2021夏ハイエンドなので不満なし
LEITZ PHONE 1 LP-01のスペック
・SoC:Qualcomm Snapdragon 888 5G
・メモリ:12GB(LPDDR5)
・ストレージ:256GB(UFS3.1)+microSDXC(最大1TB)
・画面サイズ:6.6インチ
・画面解像度:2,730×1,260(WUXGA+)
・アウトカメラ:約2,020万画素+ToF
・インカメラ:約1,260万画素
・対応バンド:5G n3/n28/n77/n78、4G 1/2/3/4/5/7/8/11/12/17/18/19/28/38/39/40/41/42
・Wi-Fi:IEEE 802.11a/b/g/n/ac
・Bluetooth:Bluetooth 5.1(LDAC対応)
・バッテリー:5,000mAh
・充電端子:USB Type-C
・OS:Android 11→Android 12
・その他:防水防塵(IP68)、FeliCa、指紋認証対応
・サイズ:約162×74×9.5mm
・重量:約212g
スマートフォンとしての基本性能はAQUOS R6とほぼ共通しています、違いはあるのかというと、AQUOS R6ではコスト上の理由で128GBに留められたストレージを、より高価なLEITZ PHONE 1では惜しまず256GBに拡張したという程度。2021年夏発売のハイエンドスマートフォンとして相応の性能を持っています。
発熱やバッテリー消費に課題が残る機種が多いとされたSnapdragon 888 5G搭載機の中では、比較的おとなしく扱いやすいチューニングとなっており、実用上さほど悩まされる場面は少ないです。似たような傾向だった過去世代のSoC(Snapdragon 810など)でも同じ感想を持ちましたが、シャープはSoCの性能を限界まで引き出すというよりは安定志向のチューニングで出してくることが多いので、問題児扱いされがちな世代のSoCでもそこそこマシなものが多い気がしますね。
動作に関する不満はあまりないのですが、外観の項目で触れたように、時代遅れの湾曲ディスプレイによる細かなストレスは正直あります。カメラを売りにしている機種でありながら構図(主に上下の余白)を取りづらいのは致命的な欠陥と言わざるを得ませんし、湾曲部分の折れ目にメニューボタンが来てしまうアプリも少なくなく、反応が悪く押せない場面にもしばしば遭遇します。
エッジディスプレイ全盛期には手を出さなかった(そもそも液晶派だった)メーカーなだけに、よそならとっくに獲得しているはずのこういう処理のノウハウがたぶん無いんですよね。本当になんでいまさらやってしまったんだ、としか言いようがありません。
ご自慢の自社製有機ELパネル「Pro IGZO OLED」を採用したディスプレイの画質に関しても、ずっと昔からのAQUOSスマホあるあるで、画質モードをどれにしても違和感があるんですよね。カメラ重視のスマホ、しかも肝心のオートはそこまで賢くなくて後加工必須みたいな写りなのに、ディスプレイの色が信用できないというのは困ったものです。
機能・使い勝手:99%いつものAQUOS。指紋認証が素晴らしい
UIや機能について語るべき点はそれほど多くありません。というのも、99%いつものAQUOSだからです。
どこにもAQUOSと書かれてはいないというだけで、どの画面も見慣れた外観とメニュー構成ですし、スクロールオート、Clip Now、エモパーなどおなじみの機能も当然のように入っています。AQUOSのUIや機能はそこそこ好ましく思っているので「普通のAQUOSと同じ」なこと自体が不満というわけではありませんが、やはり外装と比べて高価なコラボ製品としての特別感に欠けるとは思います。ソフトウェアのライカ要素は、ロック画面の時計のフォント、ホーム画面の写真ウィジェット、カメラアプリだけですから。
悪い意味で「あ、そういえばAQUOSじゃないんだ」と実感できる数少ない点はアップデート保証がないこと。実のところ、アップデートはそれなりに来ていますしAndroid 12へのOSバージョンアップだって行われていますが、最後までAQUOS R6と同等の対応が確約されているわけではないということは頭の片隅に入れておいた方が良いでしょうね。
機能面で……というより、LEITZ PHONE 1のユーザー体験全体を通して個人的に一番感動したのは指紋センサー。AQUOS R6/LEITZ PHONE 1は「Qualcomm 3D Sonic Max」という超音波式画面内指紋センサーを搭載しているのですが、これめちゃくちゃすごいです。
一般的なセンサーなら超音波式でも光学式でも指1本分程度の小さな丸の中だけが判定範囲ですが、3D Sonic Maxは3cm×2cmと範囲が広いおかげで、画面を消灯したままガイドなしの手探り状態でもスムーズに開けられますし、普通は何度もペタペタペタペタしなきゃいけない指紋登録だって指を1回置くだけで終わり。天下のQualcomm様のパーツにしては採用メーカー・機種が非常に少ないようで今回はじめて触りましたが、ぜひもっと普及して欲しいですね。
カメラ:いつでも誰でもきれいに撮れはしない、コツが必要
さて、「カメラスマホなのにいつになったらカメラの話するんだよ」「くっそマニアックな指紋センサーの話とかどうでもいいわ」と思われていそうなので……いいですよ。本題に入りましょうか。
ひとまずカメラアプリをご覧ください。基本的にはこれも「いつものAQUOS」なのですが、一部の数字などがライカのフォントになっていたり、1.0x/2.0x撮影時に「ブライトフレーム」が表示されるようになっています。
画面上の表示範囲=撮影範囲となる一般的なライブビューに対し、この機種の場合は画面中央の白い枠(ブライトフレーム)の中だけが実際に写る範囲となります。レンジファインダーの仕組みに由来し、ライカQシリーズなどではEVFやライブビューでも本機種のようにデジタルで再現されています。わかる人にはわかる、ライカっぽい画面ということになりますね。撮影範囲の外まで見ながら切り取る範囲を考えやすいので、慣れてくれば実用上もそこそこメリットがあります。
前半でも書いた通り、LEITZ PHONE 1のカメラは1型センサーと35mm判換算19mmのズミクロンレンズを搭載しています。超広角一発という特殊な構成のため、「普通のスマホカメラっぽい画角」はクロップで対応しているわけです。カメラアプリで1.0xと表示されている時は実はすでにクロップされた状態で、0.7xが本来の画角となります。
ちなみに、この1型センサーは某高級コンデジに使われているソニー製センサーだとか。次世代のAQUOS R7ではスマートフォン専用の1型センサーが用意されましたが、AQUOS R6/LEITZ PHONE 1の頃にはまだそんなものはありませんでしたから、デジカメ用のセンサーを流用しているが故に縦横比は4:3ではなく3:2。これ、写真やってる人には地味にうれしいんじゃないでしょうか。
カラー撮影で「おっ、これはいいな」と思えるような色が出る打率はお世辞にも高くないため、ライカ監修のモノクロ撮影モード「LEITZ LOOKS」の方が面白いと思います。ちなみにこれはAQUOSには搭載されていないLEITZ PHONE 1専用の機能です。
この機種を買う人は多かれ少なかれカメラ性能に期待を抱いているはずですが、はっきり言って微妙。いつでもどこでも誰でも安定してきれいに撮れるようなものではなく、ちょっとコツが必要です。
特にテーブルフォトは鬼門。大型センサーで開放F1.9固定という被写界深度の浅さ、スマホに詰め込むための無理な設計による周辺画質の低さ、最短撮影距離の長さ、賢くないオートホワイトバランスなど、様々な要因が絡み合ってかなり打率が下がるので、立派なカメラを持っている人でもスマホで済ませたい場面として期待されがちな「料理をパッと美味しそうに撮る」のは苦手な機種です(上の2枚、全然いい感じに撮れてないですよね)。
せっかくPhotoshop Expressがプリインストールされていることですし、後処理でうまいことやればいいのか……?と思いきや、先述の通りディスプレイの色がまともじゃないですからね。詰んでます。
メシは撮れない、動体にも弱い……LEITZ PHONE 1のカメラが実力を発揮できるのは風景ぐらいです。肌身離さず持っているスマートフォンで、ふと思い立った時にいつでもそこそこ良い写りのスナップ撮影を楽しめる、ぐらいの距離感がちょうどいいんじゃないでしょうかね。
GR Certifiedの時期も含めてAQUOSのカメラが良かったことなんて一度もないので、個人的にはライカと組んで劇的に良くなるなんて期待は一切しておらず「まあこんなもんだろうな」と思いましたが、どうしてライカさんはよりによってこれを自分たちの看板の下で売るゴーサインを出したんでしょうね。同じライカ監修カメラでもファーウェイの方がよっぽど素晴らしい物を作っていたと思いますけど……。
総評:定価で買ったら納得できなかったと思う
LEITZ PHONE 1を語る上でカメラを抜きにはできませんが、素晴らしいカメラを持った一芸特化のスマートフォンとも言い切れないのが難儀なところ。定価を払った人々の期待にはきっと応えられていないと思います。半額以下で買った私でも「あぁ、想像していたよりはまともだな。半額以下で買ったからギリギリ悪い買い物でもなかったかな」というのが率直な感想です。
外装は素晴らしいクオリティーなのでブランドアイテム、ファングッズとしては悪くないと思いますが、高価なカメラスマホとして見るなら価格相応の価値はありません。
Qualcomm 3D Sonic Maxだけは文句なしに素晴らしかったので、もっと採用機種が増えて欲しいですね(2回目)。