2022年5月20日発表、6月16日に発売された日産自動車の軽EV「サクラ」。軽自動車規格のEVそのものは初というわけではありませんが、本格的なEV普及に向けて一般人に“まともに売る気がある”車種としては実質初号機のようなもの。それだけに注目度は高く、各方面で話題になっています。
そんなサクラが、日産公式のカーシェアリングサービス「e-シェアモビ」に早くも導入されたということで、さっそく興味本位で乗りに行ってきました。サクラを運転してみた感想を記すとともに、e-シェアモビ自体も今回はじめて利用したのでサービスそのものの評価もしておこうと思います。
「サクラ」に乗った感想
「eKクロスの派生」な三菱版に対し、日産版はEV専用車種として演出
日産の軽自動車は、三菱自動車との合弁会社・NMKVで作られており、今回の軽EVも例外ではありません。ただし、三菱側の軽EVは「eKクロス EV」」としてガソリン車のeKクロスの派生車種のような出し方が選ばれたのに対し、日産側では既存車種(デイズ)とは別のサクラという名前が与えられました。
内外装にも「デイズとは別物」というスタンスが反映されており、エクステリアに関してはフォルムこそよくある軽ハイトワゴンではあるものの、灯火類やフロントフェイス、ホイールなどには先に登場した電動SUV「アリア」に通じる要素も。日産のEVラインナップ全体としての近未来的なイメージを作ろう、統一感を出そうというブランディングへの力の入り具合を感じます。
ちなみに、e-シェアモビで導入されている車両は最上位のGグレード。最廉価グレードのSグレードは(個人でも一応買えるようですが)カタログも分けられていて法人グレードという扱いで、一般的にはXとGの二択になります。
Sグレード以外はアルミホイールですし(eKクロスEVはそこの扱いがちょっと違う)、Xを選んでもオプション扱いで追加できてしまう装備が多いので、決定的な違いは少ないです。バッテリー容量なども変わりませんし、もし買うならXをベースに必要なオプションだけ足せば十分だろうなと感じました。
アリアやオーラにも通じるプレミアムな内装
サクラのグレード別の価格は、「S」が233.3万円、「X」が239.9万円、「G」が294万円。現時点におけるEVの価格としてはかなり頑張っていることは間違いありませんが、一方で、是が非でもEVを買わなければと考えている層を除いた大半の民衆にとっては「軽自動車としてはまだ高い」とも映るでしょう。
その点は抜かりなく、決して「パワートレイン以外のすべてをケチってこの値段に抑えました!」というような車ではありません。特に内装に関しては、プレミアムコンパクト、プレミアム軽として捉えた場合にも価格相応に見えるであろう質感が与えられています。
(夜間の短時間しか借りられなかったので写真の画質はご容赦ください)
最近の車らしい水平基調で開放感のあるインパネ、ファブリック素材を多用したリビング感覚の内装など、エクステリア同様にインテリアにもアリアの面影があります。
ちょっとオーラ似でもあるかな?と一瞬思いましたが、そもそもオーラの内装もやはりアリアの方向性を踏襲したものですし、それはそうでしたね。改めてそう考えると、アリアはもはやかつてのリーフのような主力ラインナップとは別枠のEV専用車種ではなく、完全に新世代の日産車全体のフラッグシップ車種なんですねぇ。
前席は収納もたくさんあって実用的な空間ですが、操作性に関して微妙に「?」となるところもいくつか。まず車のエアコンスイッチとかのセンターコンソール部分をタッチ操作にするのは良くないよね……というのは散々あちこちで言われていることなので、何が良くないかは省略。あと、ご覧の通りすぐベッタベタになって清潔感がないのでピアノブラックの樹脂パーツは好きじゃないですね……みんなそうなのでもう流行り廃りの波が過ぎるまではどうにもならないでしょうけど。
ドライブモードのセレクトボタンがハンドルの右下、右膝の前あたりにひっそりと配置されているのは「フル液晶メーターだしステアリングに色々ボタンもあるんだから画面内で操作させちゃダメだったのか?」と純粋に疑問ですし、逆に大きく挙動が変わりすぎて不意に切り替えられてはマズそうなe-Pedalのボタンがシフトレバーの隣にあるのも謎です。
GグレードはApple CarPlay / Android Auto対応の9インチNissanConnectナビゲーションシステムを標準搭載。日常的な送り迎えや買い出しにしか使わないユーザーが多そうな車(というか航続距離にも……)にここまでは要らないかな~という気もします。Xグレード以下はオーディオレス仕様が標準です。
ちなみに、雑に言えば「Gグレードは全部入り、でも欲しい機能があればXグレードにも単品で付けられるよ」という構成になっているのですが、自動駐車機能「プロパイロット パーキング」だけは完全にオプション扱い(Gグレードのみに追加可能)。今回乗った車両には付いていなかったので試せませんでした(まぁ、軽の駐車ぐらい自分でやれよと正直思いますが)。
充電中の休憩に、少しだけ後部座席にも座ってみました。シート自体は前席よりはワンランク落ちるというかそれなりの質ですが、想像以上に足元の空間が広くてびっくり。床もフラットだしEVなのが効いてるのかな……と思いつつ調べてみたら、ガソリン車のデイズでもほとんど変わらなさそうですね。下手なこと書かなくて良かった。
評判通りの加速感だけど、アンバランスゆえの不安も
エコカーにもハイトワゴンにも興味がなく、環境問題という名の偽善心に漬け込んだロビー活動も、本末転倒で非現実的なEV推進もクソ食らえと思っている私が、サクラに一度乗っておこうと思った理由は評判の良い動力性能を確かめるためです。
まず走りに関して言えば、たしかに評判通り、外見からは想像できない軽ハイトワゴンのイメージを覆す加速感は爽快でした。それもそのはず、最高出力こそ軽規格の自主規制を守って64psに留めていますが、トルクは19.9kgf・mとガソリン車でいえば2リッタークラスのNAエンジンに匹敵します。
デイズとの比較でいえばNAモデルの3倍、ターボモデルの2倍もトルクがあるわけで、出足は俊敏です。あくまでトルクに限った話でパワーは軽枠のままですし(それも馬鹿げた話だとは思いますが)、現在市販されているほとんどのBEVと同様に変速機なしの固定ギア比なので、冷静に見れば本当に速いのは50km/h程度までではないでしょうか。
加速ではなく加速“感”が素晴らしく見える理由としては、エンジンと電動モーターの立ち上がりのレスポンスの差もありますし、エンジンのような分かりやすい唸り声を上げない分、いつの間にか速度が乗っていたという感覚になりやすいということもあるでしょう。
走行モードはECO、STANDARD、SPORTの3段階がありますが、先述の通り、低速域を除けばあくまで優れているのは本当の加速力ではなく加速“感”。ECOモードとSPORTモードを切り替えながら味わってみてもあまり違いは感じませんでした。つまりECOモードにしても「我慢している」感じはないので、後述の航続距離の厳しさも考えると常時ECOモードで十分だと思います。
この加速感については、確かに楽しいかもしれないけれどあまり感心しないというのが個人的な感想です。飛ばす気がなくてもスムーズに速度が乗ってしまうかもしれませんが、軽規格に収まる車幅の中でのトレッドですから直進安定性は望めませんし、背高のっぽの軽ハイトワゴンですから曲がるわけでもありませんし、1トン超えの車重をブレーキだけで難なく止められるほどの制動力はありません。
走る・曲がらない・止まらない。電動化の恩恵でチート級に性能が上がった部分とあくまでただの軽ハイトワゴンな部分のコントラストが鮮やかすぎて、本当に速い車よりもよほど注意深く向き合わないといけないという意味で気をつかいました。運転感覚の鈍い人が普通の軽の感覚で扱うとあっさり横転とかしそうだな……という怖さがあります。
あ、端折って「止まらない」と書きましたが、正確にはしっかり特性を理解してブレーキパッドではなく回生で止まる意識を持てば十分止まれます。いちおう回生強調ブレーキが入っているそうですが、幹線道路の下り坂で赤信号に引っかかった時なんかはBレンジに入れないとちょっと苦しかったですね。あくまで軽なので高望みしすぎでしょうけれど、いちいちBレンジを使うのも手間なので上位グレードだけでもパドルスイッチで回生量を調整できたら良かったな~と思いました。
走行性能の不満としてはもうひとつ、回生強調ブレーキの制御の問題か、そもそものブレーキ自体の性質かは分かりませんが、減速~停止時にギクシャクしがち。ここは数時間の限られた乗車時間では馴染み切れませんでした。
e-Pedal Stepは……個人的にはナシですね。速度維持が繊細すぎてむしろ使える上に減速のショックが大きく、「人を乗せている時には使えないな、同乗者が酔ってしまいそう」というのが率直な感想。感覚的に言えば、MT車で1速だけで走り続けているような気持ち悪さがあります。あと、こんな挙動でブレーキランプを点けたり消したりうっとうしい動きをしている車が前にいたら、私が後続車のドライバーなら間違いなくムカつきます。
噂以上に厳しい航続距離
サクラのバッテリー容量は20kWh、カタログ上の航続距離は180km(WLTCモード)。価格やサイズ・車重との折り合い、軽自動車らしい近距離利用を主体とした想定用途から、今のBEVとしてはちょっと控えめです。そうは言っても、当時の計測方式との違いなどを加味すると初代リーフと同じぐらいは走れるんじゃないか?と思える値でもあります。
しかし、現実はなかなか厳しいです。今回の記録としては、バッテリー残量44%の状態で借り、19%まで減ってから一度充電して79%まで回復。返却時には22%まで減っていました。のべ82%相当の電力を消費し、走行距離は77.4kmでした。
単純に考えれば、実使用でフル充電から走れる距離はたったの100km、電欠の安全マージンを取ったら80km程度しか動けないということになります。走行条件としては、1名乗車でエアコンはON。走行モードはほぼずっとECOで、比較のためにSTANDARD/SPORTも数回使ったかなという程度です。
かなり人を選ぶというか、環境や使い方次第で受け入れられるかギリギリの航続距離だと思います。戸建て住みで常に充電できることは当然の前提として、都市部に住んでいて近場の買い出しや駅までの送迎にしか使わないならオッケー。生活圏の距離感が異なる地方なら、最低限の日常の足としてすら厳しいケースも少なくなさそうです。たとえば、「買い物の内容によっては30km先の地方都市まで行かなきゃいけない」みたいなところだとギリギリですよね。
充電について補足しておくと、今回途中で利用したのはCHAdeMO規格の急速充電ステーション。30分/回の充電で19%から79%まで回復できましたから、何回も充電しなきゃいけないような長距離移動でもなければ許容できそうな速さです。こういう場所を生活圏内に確保できるなら、自宅(保管場所)で充電できなくても所有できなくはないかもしれませんね。
サービスエリアや日産ディーラーなどではなく、ごく普通の広めのコンビニの駐車場にこんなものが用意されているとは(しかも2台分!)少しずつは普及してきているんだなぁと実感するとともに、ド深夜にも関わらず充電開始直後に次の利用者が現れ、2枠なければ困っていたなという状況でもありました。やはり、これからやってくるであろう過渡期の出先での充電事情を考えてしまうと厳しいものがあります。
「e-シェアモビ」を利用した感想
冒頭でも触れたように、今回は日産公式のカーシェアリングサービス「e-シェアモビ」を使ってサクラを借りました。この手のサービスは他社でもいくつか出始めていますが、「ディーラーに試乗しに行くほどの購入意欲はまだない」あるいは逆に「ディーラーの試乗程度では購入を決断するほど深く知れない」という場合には非常に便利なサービスですよね。
今回はじめてe-シェアモビを利用したので、最後にサービス自体の評価も少し。
2022年8月現在、e-シェアモビで利用できる車種はサクラ / ノート(e1クラス)、キックス / リーフ(e2クラス)、セレナ(e3クラス)。サービス名にもeと付いているぐらいですから、EVまたはハイブリッド(e-Power)車のみのラインナップとなっています。6時間~のパック料金や各種ナイトパック(時間帯別に細分化)の設定もありますが、15分ごとの時間料金とのバランスを考えると元は取りにくく、どちらかといえば短時間利用向き。ただ、距離料金を取られないのでガッツリ遠出するなら長時間利用にも悪くはなさそうです。
使ってみて良かった点は、いち早くサクラに乗れたこと。悪かった点は、UI/UXが全体的にこなれていません。
公式サイトは現代的で見栄えが良いのですが、実際の予約に使う会員ページは何年前?という感じの素朴すぎるUIでとても車両を探しにくいので、今回のように車種指定で探して借りたい場合、先に非会員向けのページで目当ての車種があるステーションを調べておかないとスムーズに予約できません。
専用アプリはなくブラウザベースのサービスとなっていますが、車両に免許証をかざすだけで貸出/返却ができるのでその場でスマホを開いてあれこれしなくて良いのはちょっと便利ですね。
イケてないサービスだなぁ、と思った部分の中でも特にイラッとしたのが返却時の充電について。リーフやサクラのようなBEVを借りた場合はステーション備え付けの充電器を接続しないと返却できないようになっているのですが(これ自体はとても良いことだと思います)、その方法がだいぶ初見殺しでした。
もしかしたらステーションによって仕様が違うかもしれませんが、今回借りた場所では充電スタンドからケーブルを取り出す際に暗証番号を入力する必要があり、いざ返却しようとしたら「えっ、なにそれ?そんな番号どこに書いてあるの?」と右往左往する羽目になりました。
実は予約時のメールに
【貸出ステーション】 ○○ステーション
ご利用時は下記よりステーション情報を必ずご確認ください。
(リンク)
※ステーション情報には、駐車場入退出方法、特記事項として充電器接続方法などが記載されています。
と書かれていて、そのリンク先に暗証番号が書かれていたというオチ。確かに見ろとは書いてあるけど……こういうのって正直見落としがちですよね。そのメールに暗証番号自体を書くか、せめて返却時に暗証番号が必要なことぐらいは書いといてよと思います。(若干逆ギレ感もありますが)重要性が伝わってきません。
困ったことに、この暗証番号は車両備え付けのマニュアル類にも書かれておらず、じわじわと時間料金を取られながら探し回ったあげく(メールの件には気付かず)、サポートセンターに電話したら「予約時のメールにも記載してありますが、○○と入力していただいて……」と大変丁寧にご案内いただき、ちょっと「は~~~~???なんだてm」と思っちゃいましたね。