ホンダのメーカー直営カーシェア「Honda EveryGo」に、7月に発売されたばかりの新型車「シビック e:HEV」が導入されたと聞いて、さっそく長めの試乗感覚で乗ってきました。
導入されたとは言っても全国で4台、首都圏では三鷹(東京都)と蘇我(千葉県)に1台ずつしか配備されていないので予約はギッシリ。珍しく2週間も前から予約して楽しみに待ちました。
EveryGoは何度か使っていますが、夜中にディーラーの駐車場から勝手に乗っていく形式のステーションだとちょっと悪いことをしてる感じがしますね(※合法です)。
例によって安上がりなナイトパック(21:00~7:00/1,500円+距離料金)での利用なので、どこかに出かけるというよりは時間いっぱいひたすら運転しておく感じに。蘇我から大洗まで行って、つくば周辺のワインディングロードも試しつつ戻ってくる試乗コースにしました。
とりあえず外観から紹介……しようかと思いましたが、このブログでは既にガソリン車のレビューが上がっていますし、車体色も同じプレミアムクリスタルブルー・メタリックなので「もう見た」って感じですよね。省略します。
一応細かな違いはあって、前後のホンダエンブレムがハイブリッド用(内側が青いやつ)になっていたり、ドアミラーがLX/EXグレードのどちらとも違う黒色(ボディ同色でない)になっていたりします。窓枠が銀メッキではなくブラックアウトしているのはEX(ガソリン車の上位グレード)と同じですね。
内装も基本的にガソリン車と同じで、各部の仕上げはやはりEXグレードに準拠。ステアリングなどにレッドのステッチがさり気なく入り、シート表皮はウルトラスエードです。
内装で唯一見分けがつくポイントはココ。ガソリン車は通常のレバーですが、e:HEVはボタン式になっています。まったく同じ内装でレバーかボタンかだけが違う車に何度か乗っているので一瞬戸惑いましたが、はじめからこちらしか知らなければさほど気にならないでしょう。
その奥にあるスマートフォンのワイヤレス充電スペースはEXと同じ。これ、地味ながら使いやすかったです。一見フラットに見えて、さり気なく端末がズレないような突起を付けてあるので安定感がありました。
珍しく実用目線っぽいコメントをしたところで、ついでにガソリン車の時に書き忘れたことを。最近いろんなメーカーの新車をカーシェアで乗ってみていますが、ホンダの現行世代のナビの音声認識はけっこう優秀な気がしています。
画面に表示される通りの構文で話しかけないと(おそらく)認識してくれないという柔軟性の低さは気になりますが、そのお作法さえ一度覚えてしまえば、型が決まっているだけに音を拾ってくれる打率はすごく高いんですよ。今回は静かなハイブリッド車なのでともかく、ガソリン車でエンジンをそこそこ回しながらでも手元のボタンで音声認識を呼び出して話しかけたら余裕で認識してくれて驚きました。
メーターはLXグレードと同じ10.2インチのデジタルグラフィックメーター。表示内容は一部ハイブリッド用にアレンジされています。ガソリン車もそうでしたが、リフレッシュレートが高いのか擬似的な針の動きがけっこう滑らかで、デジタルメーター上に再現されたアナログ風表示にありがちなもどかしさは軽減されています。左右の疑似メーター内に出す項目は、ステアリングの左右にあるホイールで個別にいつでも変更できます。
乗り込んでメーターを見てまずビックリしたのが、航続距離すごいですね。エコカーかよ(いやエコカーなんですが)。
タンク容量は40Lで、実燃費がだいたいスポーツモードなどを試しても20km/Lは切らないぐらい。あと、何気にFLシビックでハイオク指定じゃないのはコイツだけというのも大事なところ。タイプRは当然ハイオクですし、素の1.5Lターボ車もイギリス生産だった先代のパワートレインを引き継いでいるせいで、国内生産に戻った今世代もハイオク仕様のままなんですよね。
乗ってみた感想は……正直めちゃくちゃ良いです。電動車でここまで波長が合った車は初めてかもしれません。「スポーツe:HEV」という謳い文句は伊達ではなく、環境や燃費に興味がない私でも、純粋にFLシビックの上位グレードとして欲しいと思えました。
パワーユニットの構成を比較すると、ガソリン車(FL1)は182PS/24.5kgf・mの1.5Lターボエンジン(L15C)を搭載しており、e:HEV(FL4)は141PS/18.6kgf・mの2L自然吸気エンジンと184PS/32.1kgf・mの電動モーターという組み合わせ。e:HEVの前提知識として、基本的にはエンジンは発電役に回ってモーターで走り、高速巡航など内燃機関の方が効率が良いと判断された場面だけエンジンが駆動系に直結します。
モーター単体でもL15Cエンジンと同等のパワーと1.3倍のトルクがあるわけですし、単純に考えたらたぶんe:HEVの方が速いんだろうな、というのは推測できますよね。もしかしたらe:HEVの構造的に日本の速度域やリミッターの範囲だとそこまで出ないからあえて伏せているのかもしれませんが、参考までにエンジン/モーターともに日本仕様と変わらない欧州仕様ではシステム出力212馬力と公表されています。実際にはさらに「CVTよりレスポンスが良い」「ガソリンエンジンよりトルクの立ち上がりが速い」といった要素も加わりますから、吊るしで乗るならやはりe:HEVの方が動力性能は上でしょう。
そして、ベースモデルの美点だった爽快なハンドリングも健在。CVT車との比較で100kgほど車重が増えているのをあまり感じさせません。ちなみに標準装着タイヤは、ガソリン車で採用されたグッドイヤーの「EAGLE F1 ASYMMETRIC 2」からミシュランの「PILOT SPORT 4」に変更。ハイブリッド車にスポーツタイヤ付けて売るメーカー、頭イカれてます。
足回りも車重増に合わせてきっと再調整されているのでしょう、大まかなキャラクターとしてはまさに一致しています。良くも悪くもシビックらしく、走りを楽しむ車としては実に良い硬めのセッティング。ちょっと荒れた路面だとお世辞にも乗り心地は良くないので、何かの間違いで400万円のちょっと良いエコカーというつもりで買ってしまった人は「何だこれは」と驚くでしょうね(苦笑)。
ドライブモードはECON/NORMAL/SPORT/INDIVIDUALの4種類。SPORTモードではメーターが赤色に変わり、アクティブサウンドコントロール機能によるスピーカーからのエンジン音の演出が加わります。静粛性の高い車内で無音で聞いてしまうと作り物っぽさにゲンナリしますが、音楽やラジオを流していれば「まあこんなもんか」と思う程度の軽い違和感です。
INDIVIDUALモードとはなんぞや?実はこれ、ガソリン車には搭載されておらず、このシビック e:HEVが国内では初採用車種となる新機能です。
他の3モードではパワートレインと電動パワーステアリング、メーターデザインの3点セットで切り替わっていて、INDIVIDUALモードでは各項目を個別に選べます。たとえば「SPORTモードの瞬発力は欲しいけど、パワステが重くなるのは疲れるからNORMALで」とか、「SPORTモードは同乗者の視線が気になるからメーターだけNORMALに戻しとこ」みたいな使い方が考えられますね。
ちなみに、続けて発売されたタイプRにも同名のINDIVIDUALモードが搭載されています。あちらはサスペンションのセッティングなども各モードの良いとこ取りで設定できる模様。
結論としては、環境だの持続性だのくだらないことはどうでも良く、ハイブリッド車である以前にFLシビックの上位グレード、それも持ち前の長所を伸ばしたスポーティー路線の進化版として素晴らしい出来でした。
FL1の時点でかなり気に入っていて欲しい車でしたが、FL系の中でどれかを買うとしたら柄にもなくe:HEVかもね、と思っています。
タイプRは私のような貧乏人に手の届くおもちゃではありませんし(そもそももう争奪戦が始まっていますし)、スポーティーな車は好きですが案外MT車を所有したいというこだわりはそこまで強くないことを最近自覚しつつあって、車の運転ではシフトガチャガチャよりコーナリングが一番好きなんですよね。となると、CVTかe:HEVかという話になってきますが、この2択まで来るとe:HEVの方が断然楽しかったなと。
唯一の難点は400万円近い価格ですが、今後確実に価値が上がっていくタイプRとノーマルのMT車とは違い、中古市場ではフツーの車として相応の値動きをしていくはずです。ましてや、ホンダのちょっとお高めのセダン/ハッチバック系の普通車は非常にリセールバリューが低いですから、CV3アコードやZE4インサイトの今の中古相場を見る限り、3年ぐらい待てばFL4は200万円台前半ぐらいで買える車になるんじゃないかなと思っています。予想が的中したらその時は真面目に検討しますね。