イギリスに本拠地を置くスタートアップ企業、Nothing Technology(以下、Nothing)による初のスマートフォン「Nothing Phone (1)」が8月19日に日本でも発売されました。しばらく使ってみたのでレビューします。
「Nothing Phone (1)」ってどんな機種?
Nothing Phone (1)について解説するには、まずNothingとは何者かの説明を避けては通れないでしょう。
Nothingは2020年10月にカール・ペイ氏らによってロンドンで創立されたベンチャー企業です。カール・ペイ氏は、かつてアーリーアダプターたちから熱烈な支持を受けていた(あえて過去形にしておきます)OnePlusというブランドの共同創業者でもあります。さらにNothingは、OnePlusと同じようなファン層を抱えていた一代限りの幻のスマートフォンメーカー「Essential Products」のブランドや知的財産も買収しています。
そんな生い立ちからすると、やはり彼らがスマートフォンを作ることを期待する人が多かったのも自然な流れです。しかし、最初に発売された製品は完全ワイヤレスイヤホンの「Nothing ear (1)」でした。
それから長いティザー期間と「いまのスマートフォンはつまらない」「Appleに取って代わる存在になりたい」など数々の香ばしい意識高い発言を経て、2022年7月、ついにNothing Phone (1)を発表。Nothing ear (1)のイメージを踏襲したトランスルーセントデザインを採用し、背面には「Glyph Interface」という特徴的な機能を持たせた多数のLEDを並べました。
スペック的にはSnapdragon 778G+を搭載するミドルハイレンジ相当のAndroidスマートフォン。HDRコンテンツや高リフレッシュレートに対応したハイグレードなディスプレイ、今やスマートフォンで最重視される要素ともいえるカメラ性能はもちろん、急速充電、ワイヤレス充電などの中価格帯以上の機種に求められるポイントをしっかりとおさえ、初物としてはバランスの取れたプレミアム寄りのミドルレンジスマートフォンに仕上がっています。

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外観:個性的な背面デザイン、ビルドクオリティも高い
まずは外観からチェックしていきましょう。Nothing Phone (1)のアピールポイントであり、その個性が最も現れている部分です。
再生アルミニウム素材のフレームには透明な背面パネルがはめ込まれ、演出された内部構造が見えています。パネル越しに見えるパーツのほとんどは実際に機能する部品ではありませんが、場所によってテクスチャーを変えてみたり、レイヤーを重ねてみたり、単調に見えないよう工夫されています。
そして、カメラやワイヤレス充電コイルの周りには多数のLEDが並んでおり、特定の場面で白く発光します。これはGlyph Interfaceと呼ばれ、通知や充電、ワイヤレスリバースチャージなどの状態表示に使われます。
ちなみに、Nothing ear (1)から続くトランスルーセントデザインやドットマトリクス風のフォント、システムサウンドなどは、「OP-1」「Pocket Operator」などイケイケの電子楽器で知られるTeenage Engineeringが担当しています(つまり、Nothingの手柄ではありません)。
インカメラは一般的なパンチホール型で、画面左上に配置。前面で特筆すべき点としては、Androidスマートフォンとしてはかなり珍しく、上下左右のベゼルがほぼ均等な仕様となっています。
やたらこうじゃないと嫌だと騒ぐ人たちがいますが、これをやるには制御基板の取り回しのために(実際の表示領域はフラットでも)わざわざフレキシブルOLEDを採用する必要があったり、実用上のメリットはないどころかUIを工夫せずに下顎部分を極端に詰めると操作性が悪化したり……まぁAppleかNothingぐらい極端に美意識を優先しているところでない限りはわざわざやるわけがないんですよ。
フラットなアルミフレームはマット仕上げで、きめ細かく見事な質感。底面に並ぶSIMカードトレイ、USB端子、スピーカーがきれいにセンターラインに揃っているところも、ベゼルの件と同様にAppleライクな「普通はやらない」レベルの細部のこだわりですね。
個性的なスマートフォンを目指したはずの本機種ですが、カメラ配置やベゼル、全体的なフォルムなど、どことなくiPhone臭が漂います。
なお、見た目の「透明にしたiPhone 12」感やデフォルト4列のホーム画面につられてなんとなく小ぶりなイメージを持ってしまいがちですが、実はiPhoneで言えばPro Max級のサイズです。大きさの割にはそこまで重くないので、感覚的にはまだ見ぬiPhone 14 Plusに近いかもしれませんね。
作り手の分不相応なライバル意識が投影されすぎているんじゃないかというのはさておき、ハードの質感やビルドクオリティは非常に高く、より高価なハイエンド帯のAndroidスマートフォンと比べても出色の出来です。
外箱やシステムファイルに残る痕跡でも明らかになっている通り、製造はBYD Electronicsに委託している模様。Xiaomiなどの特殊構造/特殊素材を採用した高級機の部品製造や組み上げも請け負っているODMメーカーですし、技術レベルが相当高いんでしょうね(つまり、Nothingの手柄では……)。

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スペック:ミドルレンジ+αの性能で快適に使える
Nothing Phone (1)のスペック
・SoC:Qualcomm Snapdragon 778G+
・メモリ:8GB/12GB(LPDDR5)
・ストレージ:128GB/256GB(UFS 3.1)
・ディスプレイ:6.55インチ 有機EL 2,400×1,080(FHD+)120Hz HDR対応
・アウトカメラ:約5,000万画素(ソニー IMX766)換算24mm F1.88+約5,000万画素(サムスン ISOCELL JN1)114°超広角 F2.2
・インカメラ:約1,600万画素(ソニー IMX471)F2.45
・対応バンド:
5G Band n1/n3/n5/n7/n8/n20/n28/n38/n40/n41/n77/n78
4G Band 1/2/3/4/5/7/8/12/17/18/19/
20/26/28/32/34/38/39/40/41/66
3G Band 1/2/4/5/6/8/19、2G 850/900/1,800/1,900MHz
・SIM:nanoSIM×2
・Wi-Fi:IEEE 802.11a/b/g/n/ac/ax
・Bluetooth:Bluetooth 5.2
・バッテリー:4,500mAh
・急速充電:USB PD 33W、ワイヤレス15W
・外部端子:USB Type-C
・OS:Android 12
・防水/防塵:IPX3/IP5X
・生体認証:画面内指紋認証
・サイズ:約159.2×75.8×8.3mm
・重量:約193.5g
Nothing Phone (1)には8GB+128GB/8GB+256GB/12GB+256GBの3モデルがあり、それぞれブラック/ホワイトのカラーバリエーションがあります。以下のベンチマークスコアや所感は12GB+256GBモデルにおけるものです。
価格は63,800円~79,800円、ミドルレンジとハイエンドの中間ぐらいの価格帯に位置しています。「POCO F4 GT」のような極端に安さを重視した機種ならハイエンドSoCを搭載するものも選択肢に入ってくる金額ですが、相場からすればこのスペックでこの値段ならコストパフォーマンスは悪くありません。ブランド意識の強いメーカーにしては、思いのほか良心的な価格設定だと思います。


Snapdragon 778G+というSoCは日本市場では他に搭載機種がなく、+が付かない普通のSnapdragon 778Gがmotorola edge20に積まれている程度。少しイメージしづらいかもしれませんが、数字的には大きいSnapdragon 780をも上回るCPU/GPU性能を持っており、Snapdragon 7シリーズの中ではトップクラスに強力なSoCのひとつです。
もちろんSnapdragon 8シリーズのハイエンドには遠く及びませんから、重量級のゲームもバリバリ遊べるスペックというわけではありません。しかし、このクラスのSoCにあてがうには過剰すぎるぐらいの大容量メモリが奢られている上に、メモリもストレージも高速。私のようにスマートフォンでゲームをしない人にとっては、SNSやブラウジングなどの日常的な操作ではハイエンド機に見紛う快適さです。
ただ、「778G+のパワーで足りるけどメモリは12GB必要なシーン」は思い当たりませんね……無理に上位モデルを買う必要はないでしょう。
処理性能以外の部分を補足しておくと、まずOSのメジャーアップデートは3年間、セキュリティパッチは4年間(2ヶ月おき)を保証。新興企業の遠い先の口約束なんてあまりアテにするもんでもありませんが、今のところ、けっこうな頻度で細かな修正を中心としたアップデートが降ってきており、意外とマメだなと驚いています。
長いティザー期間中にデザイン面でのほとんどの情報が小出しで分かってしまった後も、なぜか前面だけはほとんど公開されていなかったので「まさかiPhoneを意識しすぎて指紋認証なしの顔認証オンリーなんてオチはないだろうな?」と密かに疑っていましたが、正式発表のタイミングでちゃんと画面内指紋認証に対応していることが確認でき安堵しました。光学式で特別優れたものではありませんが、(Pixel 6のような)目立った不都合はなく、十分使えるセンサーです。
急速充電は有線33W/無線15W。一部の中華メーカーの怖いぐらい速いヤツには及ばないまでも、実用上はだいぶ助かる速さです。ワイヤレスリバースチャージにも対応しており、Nothing ear (1)のようなワイヤレスイヤホンなどを上に置いて充電できます。
さすがに日本市場にそれほど本腰を入れているわけではないのでFeliCaまではありませんが、普通のNFCには対応していますし、防滴性能も確保。(おそらく)単一モデルでグローバル展開しているため対応バンドも意外と充実していて、さすがにドコモとChina Mobileぐらいしか使っていないn79は無いまでも、日本で必要な周波数帯はほとんど揃っています。
UI/UX:名ばかりの「Nothing OS」


発売直後に案件らしきインフルエンサー様の投稿を見たら「iPhone信者だけどほぼiPhoneで使いやすい!」みたいな大変参考になるご意見が書かれていて鼻で笑ってしまいましたが、UI/UXは99%素のAndroidです。
「Nothing OS」なんていう大層な名前と彼らの大言壮語に釣られて勘違いしている人が万が一いると困るので一応書いておくと、OPPOの「ColorOS」などと同じように、Androidベースのメーカー独自UIをそう名付けているだけです。いや、独自OSごっこをしても許されそうなぐらいガッツリ弄っているOPPOと一緒にするのは失礼か。


Nothing OSが他のAndroidスマートフォンと違うところは、例のドットマトリクスになっているウィジェット、意味があるのかないのか微妙なクイック設定パネルの巨大表示、いかにも“ああいう人たち”が喜びそうなテスラとの連携(※Tesla APIを使っているだけで、別にパートナーシップを結んでいるわけではない)ぐらい。
Teenage Engineeringのデザインが普通に好きな人としては、オリジナルデザインのボイスレコーダーアプリのほか、時計/天気ウィジェットやロック画面、設定メニューの見出しなどのドットマトリクス風フォントは気に入っているのですが、端末の言語設定を日本語にしていると見られる個所が極端に減ってしまうんですよね。こればかりは極東の小さな島国で売るために作られているわけではないので仕方ありません。
ただ、タイミングの良いことにAndroid 13では「端末の言語設定とは別にアプリごとの言語設定を指定できる」仕様になっていますから、将来的にNothing Phone (1)にもOSアップデートが来れば、システム言語は英語にして美しいUIを満喫しつつ、各アプリは日本語にして実用性も犠牲にしないということが(ちょっとめんどくさいけど)できるようになるはずです。
カメラ:意外なほどちゃんと撮れる
現代のスマートフォンのカメラはコンピュテーショナルフォトグラフィーが大前提であり、もはやセンサーで写真を撮るものではなく、ソフトウェアの力で画像を描くものです。
それ自体の賛否は置いておいて、ここで言いたいのは「ただ良い部品を買ってきても、他社の優秀な機種と同じになるわけではない」ということ。つまり、Nothingのような新参者にとっては開発のハードルが高く、その割に多くの消費者はスマートフォンを選ぶ際にカメラ性能を重視する(というよりもはやそれぐらいしか差がつかない)という大変厳しい状況なのです。
いまほどコンピュテーショナルフォトグラフィーの競争が激化していなかった4年前ですら、Nothingと同じように後ろ盾を持たないベンチャー企業だったEssentialというメーカーがカメラ性能でユーザーから厳しい評価を受けています。彼らの場合は発売直後のバージョンがひどかっただけで後々のアップデートでそれなりに見られるようにはなっていたものの(良くはなかった)、まあ一度出回った悪評を上書きするのは難しいことで……そんな彼らのノウハウを受け継いでいるおかげか、それとも無関係なのかは外野からは分かりませんが、Nothing Phone (1)のカメラは予想以上にちゃんと撮れます。

超広角カメラ(0.6x)で撮影

広角カメラ(1x)で撮影

デジタルズーム(2x)で撮影
もちろん、不自然なぐらいゴリゴリに効く夜景モードとかを期待してはいけませんが、「スマートフォンのカメラってソフトが命だから、ぽっと出のベンチャーが一発目から他社と同じレベルで戦えるとは期待しない方がいいでしょ」という経験上のさめた読みに反して、特殊な機能を使わない普通の写真をきれいに撮れる基礎体力はありました。特にIMX766のメインカメラは良い出来です。
重箱の隅をつつけば、オートホワイトバランスが頼りないとか、屋内での露出が暗めになりがちとか、広角/超広角カメラの発色傾向が揃ってなさすぎとか、色々言えることはありますよ。でも、初物としては十分合格点を与えられるレベルには達しています。以下に作例を数枚用意しました。
ちなみに、動画の手ぶれ補正もそこそこ良く効きます。軽くサンプルを撮ってみたので以下に貼っておきます。
総評:「いまのスマートフォンはつまらない」と煽れるほど面白いか?
製品を手に取るまでの私のNothingに対する印象を並べ立てれば、「資金調達の自慢ばっかで中身のあることを言わないイキリベンチャー」「実力の伴わないAppleワナビー」「こんな奴らに本気で期待してるのは意識高い系だけ」と唾棄する対象でしかなかったわけですが、製品自体は想像よりもはるかにまともな仕上がりであったことは認めます。
大きな不具合もなく普通に快適に使えますし、ハードウェアの質感の高さ、スペックシートに現れにくい部分を切り捨てていないまともなパーツ構成、ノウハウがないと普通はキツいであろうカメラのチューニングなど、「新興企業が初めて送り出すスマートフォン」の域をはるかに超えたクオリティーですし、もっと高価な大手メーカーの機種でもNothingに負けている出来の機種は少なからずあるでしょう。
でも、画一的な現代のスマートフォンを煽り立て、自分たちは個性的なスマートフォンを作ると喧伝してきたのに、フタを開けてみたらこれではやはり大口を叩いただけで終わりじゃないか、とも思います。良くも悪くも普通に良くできたスマートフォンでしかないんですよ。「みんな同じ」の“みんな”が1台増えただけです。
日本のガジェット好きから見ると、同じように「いまのスマートフォンはつまらない」とのたまい、市場のニーズにとらわれず自分たち(というより企画者自身)の欲しい物を力づくで形にしてしまった「BALMUDA Phone」の影がちらつきます。
あちらはあちらで、偏りすぎたコンセプトの受け入れがたさ、無茶な条件からくるハードウェアとしての出来の悪さ、プレミアム家電の感覚を未知のスマートフォン事業にそのまま持ち込んだ無理筋の価格設定など、ツッコミどころ満載でボロカスに評価されて今に至るわけですが、彼らは「いまのスマートフォンはつまらない」→「だから自分たちならこうする」という答えをはっきり示すことにだけは成功しているんですよね。
一方、Nothingは「いまのスマートフォンはつまらない」というアプローチは同じでも、そのお題にろくな答えを用意できず、当たり障りのない物を作って理屈を付けて“個性的なフリ”をしているだけ。これではただのHypeです。
肩を持つわけではありませんが、あれだけテック界隈の著名人を含む投資家たちから多額の出資を受けたことばかり自慢してきた彼らにとって、まずは最初の機種を無事世に送り出すことがいかに重要だったかは想像に難くありません。Phone (1)はあくまで前座、本当にオンリーワンなスマートフォンを見せてくれるのは次から……ですよね??