「OM-D E-M1X」レビュー:今の値段なら体験しておく価値はある

カメラ

オリンパスのミラーレス一眼フラッグシップ機「OM-D E-M1X」を中古で購入してしばらく遊んでみました。いまさらではありますが、せっかくなのでレビューを残しておこうと思います。

「OM-D E-M1X」の概要

まずはあまりご存知ない方向けに、さらっと概要を。

OM-D E-M1Xは、2019年2月22日にオリンパス(当時)から発売されたマイクロフォーサーズ規格のミラーレス一眼カメラ。OM-Dシリーズの最上位機種であり、ハイアマチュア~プロ向けを想定した縦位置グリップ一体型のボディが特徴。小型・軽量な機種が多いマイクロフォーサーズでは異例の1kgに迫る大物ですが、強力な手ぶれ補正やAF性能を武器に、超望遠域も視野に入れた動体撮影で強みを発揮するカメラです。

約2037万画素の4/3型Live MOSセンサー(表面照射/非積層)を搭載し、連写性能はメカシャッターで15コマ/秒、電子シャッターで60コマ/秒。純正レンズとのシンクロ手ぶれ補正では最大7.5段分の補正を実現します(M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO使用時)。サイズは144.4×146.8×75.4mm、バッテリー込みの重量は約997gです。

ハードウェアとしてはE-M1 Mark IIの世代にあたるため、Mark III、そしてOM-1が発売された今では2世代前の機種ということになります。ただ、オリンパスの映像事業が新会社・OMデジタルソリューションズ(OMDS)に譲渡されてからも販売されており、一応まだ現行機種でもあります。

発売当時の直販価格は371,800円でしたが、2020年11月には19万5,800円に大幅値下げ。2022年9月現在では、中古なら10万円切りも狙えるという、たった3年半前のフラッグシップ機としては異常な値崩れをしています。

外観・操作性:ゴツくて強いプロの仕事道具

まあ何と言ってもデカい。これがマイクロフォーサーズのカメラだとは信じがたい迫力がありますが、少し考えてみると、ニッチな路線に生き残りがかかっている今のマイクロフォーサーズには真面目にこういう選択肢も必要なんだろうなとも思います。

マイクロフォーサーズのカメラといえば、センサーが小さい分、ボディもレンズも小柄で携帯性に優れたものが中心……というのは少し古い考え方。最近ではもはやそのクラスはスマホに食われてしまったからという事情もあり、入門カメラよりもむしろ撮影対象や目的のはっきりした中上級者向けの訴求に軸が移っています。

センサーが大きい方がエラいと盲信しているフルサイズ信仰の甘ちゃんには分からないでしょうが、望遠の画角を稼ぎたい人たちやフィールドを駆け回る機動力重視の写真家、我々のように物撮りが多くボケよりも被写界深度が欲しい人など、スモールフォーマットであることを逆手に取って訴求できる領域も意外とあるわけです。

そうなってくると、昔パナソニックが言っていた「女流一眼」みたいな路線ではなくて(今あんなキャッチコピー付けたら燃えるだろうなぁ)、E-M1Xのようなゴツくて頑丈で操作性の良い「プロの道具」としての実用に耐えうるカメラもやはり必要でしょう。

多数のボタンやレバー、ダイヤルが用意されていて、撮影中の基本的な操作項目ならほとんどメニューを開かず専用ボタンで素早くアクセスできますし、縦位置で構えた際の操作にも違和感はありません。欲を言えばMENUボタンは右手親指ですぐ触れる位置に欲しくなる時があります。

軍艦部のボタン・ダイヤル類はこのクラスのカメラとしては意外とシンプル。とはいえ不足はなく、EV/ISOボタンが手元にあるのはありがたいところです。「絶対そこに肩液晶積もうとして力尽きたでしょ」と言いたくなる謎のスペースはご愛嬌。

マイクロフォーサーズで動画をやるなら普通はパナソニックのGHシリーズに行ってしまうでしょうし、機能的にもオリンパスはそれほど動画に肩入れせずスチルのユーザーを見てくれていると思うんですけど……なんでバリアングル液晶なんでしょうね?

EVFの中身は約236万ドットの液晶で、発売時期や価格帯を考えるとライバルに見劣りする仕様ではあります。ただ、実際に覗いてみると決して悪くはないどころか実用的なファインダーでした。

確かに美しい表示とは言いがたいのですが、“きれいすぎない”おかげで撮影中に見ていた映像と撮影結果のギャップが少なくイメージ通りに撮れますし、暗所でもノイズが少なくクリアで見やすいです。光学系はそれなりに良く、表示倍率も大きいですしね。

SDカードスロットやバッテリーなどの開閉部は「ツマミを起こして回すと開く」という仕様。不意に開いてしまうことがなく、操作感も非常にしっかりとしています。最近だと富士フイルムのX-H2Sなんかもそうでしたが、こういう本物の道具として細部まで真面目に作り込んでいるがゆえの「演出ではない上質さ」は使っていて心地良いですね。

SDカードスロットはダブルスロットで、どちらもUHS-IIに対応。CFexpress Type Bのような最新規格ではありませんが、汎用性の高さと速度のバランスを考えると、なんだかんだ言ってUHS-II×2が一番ありがたい気がします。

マガジンのような小気味良い操作でバッテリーを取り出してみると、土台にバッテリーを2個はめてカメラに入れるようになっていました。1個だけでも動きますが、重量バランスが考えられているので2個入れても決して負担にはなりませんからあえて外す理由はないと思います。

さすがにバッテリーを2個積んでいるだけあって電池持ちは非常に良いです。連写を多用して2~3時間で1,000枚近く撮っても20%も減っていなかった時は驚きました。

公称値は通常モードで約870枚、低消費電力撮影モードで約2,580枚ですが、これは30秒ごとに1枚ずつ撮っていくCIPA基準をベースとするやり方で測定されています。高速連写で動体を確実に捉えることが前提のE-M1Xでそんな撮り方をする人は実際にはいないでしょうから、その枚数を撮るまでの所要時間・待ち時間の違いを考えるとこの数値は何の参考にもならないんですよね。実態に即した使い方でも丸一日撮り歩けるスタミナはあると思って良いです。

このバッテリーはBLH-1というもので、E-M1 Mark IIと共通。それ自体は入手性を考えると良いことなのですが、いくらなんでもバラのバッテリーチャージャーを2個同梱してくるのはゴリ押し感が……2連装充電器ぐらいは作ってくれても良かったんじゃないかと。

E-M1Xを出した頃のオリンパスの映像事業の台所事情は相当厳しかったはず。バッテリー(チャージャー)や画像処理エンジンなどに見られる「完全新規で強いのは作れないから、既存機種のを2個盛っちゃえ」という力業やありそうでない肩液晶の件など、ちょっと足元を見られがちな部分が多々あるのも、40万円近いフラッグシップ機としては受け入れられなかった理由のひとつかもしれません。

最大100WのUSB PDに対応しているので、ボディ内充電のほうが快適かも。ちなみに、上の写真で着けているケーブルプロテクターは純正付属品。手回しのネジ止め式で、確実に固定してケーブルの抜けを防げます。動画や天体写真など長時間の安定動作が必要な撮影をする人なら重宝する装備でしょう。

大きさの割にはそこまで重いわけでもなく十分に機動力が高いカメラだと思いますし、深く握りやすいグリップ、カスタマイズ可能なボタンの多さなど、ハードとしては素晴らしい操作性です。

それとは対照的に、ソフトの操作性はイマイチ。無計画な増築を重ねた違法建築物のように複雑で、どこに何があるのか(そして何を有効にすると何が無効になるのか)よく分からないメニュー構成の難解さには閉口します。

機能:ただ動体に強いだけではない多芸なカメラ

私はマイクロフォーサーズを過去に何度かサブ機として使っていたのですが、それはすべてパナソニック側のカメラでした(レンズはオリンパスも所有歴あり)。オリンパスのカメラを持つのは10年近く前のコンデジの名機「STYLUS XZ-2」以来ということで、今回E-M1Xをじっくり触ってみて、個性的な機能の数々を新鮮な気持ちで楽しめました。

E-M1X_多重露出_03

デジタルシフトや多重露光など、通常の撮影とはひと味違う写真が撮れるユニークな機能がたくさんあります。作例は用意しておらず恐縮ですが、ライブNDも持ち前の長秒撮影の強さ(手ぶれ補正の強さ)を活かして利便性を高めてくれる素晴らしい機能です。

各機能の詳細は別記事で書いているので、気になるものがあればそちらもぜひ。ただ、多芸なカメラではあるものの、E-M1Xじゃないと使えない機能というのはほとんどありません。E-M1 Mark IIあるいはもっと昔から載っていた機能が多く、オリンパスユーザーにとっては目新しい要素はあまり無かったのでしょうね。

画質:単純な写りでは古さを拭えない、「動体特化」が刺さるか次第

E-M1Xに搭載されているイメージセンサーはE-M1 Mark II/IIIと同じ有効画素数約2037万画素のソニー製CMOSセンサーです。フォーサーズの独自サイズのセンサーはどうしても一般的な35mm判やAPS-Cと比べて進化が遅く、最新のOM-1でようやく裏面照射型や積層型というトレンドが取り入れられたぐらいなので、正直E-M1Xに載っている物は2019年の発売当時でもフラッグシップ機としては時代遅れだったはずです。高感度耐性の低さやダイナミックレンジの狭さはやはり感じます。

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E-M1X_高感度テスト_01

また、画像処理エンジンも一部の機能こそ強力ですが、基本的なアウトプットはあまり良いとは思えません。色かぶりや露出の安定感、発色など、そのままお見せできるレベルにはないかな……(性能を見せるための作例なのでそのままお見せしていますが)。一昔前のデジタルカメラって感じの画作りです。

あくまで動体撮影を中心とした特定の用途に刺さるカメラで、単純な画質に目を向けてしまえば各社の最新世代のミラーレスには遠く及びませんから、過度の期待は禁物。個人的には高感度耐性はISO 1600が“使える”限度だと感じていますし、逆に露出をマイナスに振りたい時にはそもそもマイクロフォーサーズでは回折限界が低くあまり絞り込むわけにもいきません。最大7.5段分の強力な手ぶれ補正でシャッタースピードを稼げるとはいえ、夢のように表現の幅が広がるわけではないのです。

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それでも、121点オールクロス像面位相差AFと最大60コマ/秒の高速連写による、一瞬のシャッターチャンスを逃さず確実に捉えられる実力は魅力的です。特に「インテリジェント被写体認識AF」の対象となるモータースポーツ、飛行機、鉄道、野鳥を撮るには効果が大きく、さらに言えばそれらを撮る人々は超望遠域の優秀なレンズを(比較的)コンパクトかつ安価に揃えられるマイクロフォーサーズのシステム自体にも魅力を感じてもらえる可能性が高いでしょう。狙いそのものは的確だと思います。

結論:“今の値段なら”案外悪くない

E-M1Xは商売としては間違いなく失敗作でしょうけれど、手に取ってみるとフィーリングとしては本来想定されたクラス相応の作りの良さを感じられる部分もあり、多少の古臭さやメーカーの体力不足を感じるところはあるものの、決して悪いカメラではありません。市場に受け入れられなかった根本的な原因はやはり、当時のオリンパスにもマイクロフォーサーズシステムそのものにもE-M1Xのようなターゲット層・価格帯のカメラを出せる土壌が整っておらず、空回りに終わってしまったといったところでしょう。

OMDSになってから登場したOM-1だって結構高いですが(ボディ単体で実売27万円程度)、今度はうまく魅力を打ち出せて売れているところを見ると、小型軽量路線ではスマホに食われて生き残れなくなったマイクロフォーサーズの新しい活路を見出す上で、E-M1Xで目指した路線というのはそれほど間違っていなかったのではないかと思います。さすがに縦位置グリップ一体型の巨大カメラにしてしまったのはやり過ぎだったと思いますけどね(苦笑)。

話をE-M1Xに戻すと、当時40万円近く出す価値があったとはまったく思いませんし、今わざわざ17万円前後の新品を買うのもOM-1の方がほぼ全面的に優れているので微妙ですが、中古10万円ならぜひ体験しておくべきとすら思います。いかにもな威厳のある縦位置グリップ一体型のカメラなんてそう簡単に買えるものでもないのでその時点でちょっと手を出してみたくなりますし、「小型軽量だけではない、これからのマイクロフォーサーズの生存戦略」の大きな一歩を体験でき、使ってみると発見の多いカメラです。

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