リコーのAPS-Cコンパクトデジタルカメラ「GR IIIx」を購入しました。2週間ほど使ってみたので、思うところを書き残しておこうと思います。
購入動機:「スマホとGR IIIxでいいんじゃないか」という仮説
そもそもなぜ突然買ったのかといえば、デカいカメラを買ったら小さいカメラが欲しくなるといういつもの発作なわけですが、少しマシな理由を付けるとすれば、「カメラなんてスマートフォンとGR IIIxで十分なんじゃないか」という仮説がふと浮かんだので、実際わたしのカメラとの向き合い方にマッチするか試してみたかったのです。
散々カメラもレンズも買っておきながら、ふと我に返り「これだけスマートフォンのカメラというかコンピュテーショナルフォトグラフィーが進化した時代に、大枚はたいて大層な機材を担ぐ意味は本当にあるのだろうか」と思ってしまう瞬間もあります。
そして、普段自分がシャッターを切るシーンの中で、どういう場面は別にスマホでも許せて、どうしてもちゃんとしたカメラで撮りたいのは何だろうか……と考えてみると、究極的にはきっと作品感覚でキメキメの構図で切り取りたい時とスマホで撮ると失礼になりそうな時(対人など)だけかもな、という結論に至りました。パンフォーカスに近い広角の風景写真なんかは今時のスマホならどうにでもなりますし、望遠は機材テストでもなければそんなに撮る方でもないですし、作品ではない実用写真(物撮りとか)も案外なんとかなるところまで来ていますから。
その思考の流れで、GR IIIxというカメラが急に魅力的に見えてきました。実を言うと私、GRシリーズは何度か買ってみたもののあまり合わずに挫折してるんですよ。しっくりこない要素は色々あったのですが、根本的な問題として換算28mmという画角がそれほど得意ではないというか、あまり好みではないのです。先述の通り、実用シーンから切り離して純粋に趣味で写真を撮る時の私は、引きで漫然とした写真を撮っても面白くないと思っていて、スナップにしても標準域以上で切り取る方が好きなんで。
何か1台だけカメラを持って出かけると考えた時に、換算40mmのGR IIIxだけを持って出るというのは一見、「撮れない場面」が多々発生しそうな攻めたチョイスに思えます。でも、現代人の我々は必ずスマートフォンを持っていて、広角域のありきたりの構図ならカメラなんか持って行かなくたってそれなり以上に撮れるんです。それなら、万能選手のスマホ+ポケットサイズで勝負写真を撮れるGR IIIxという2台持ちはアリな気がしてきませんか?
外観チェック:見た目はほぼGR IIIと同じ
さて、理屈をこねくり回し終えたところで、いよいよGR IIIxとご対面。今回も「みんなの防湿庫」ことマップカメラから取り寄せました。使用頻度の下がったレンズを防湿庫に戻したらタダ同然でGR IIIxを防湿庫から取り出せたのでラッキー(?)です。
はい。驚きがないのが驚きというぐらい普通にGRですね。外観は基本的に28mmのGR IIIと変わりません。
私のGR歴はGR(APS-C初期)、GR III、そしてGR IIIxという流れで、今回が3台目。GR III世代は横幅が狭くなって、とてもAPS-Cセンサーを搭載しているカメラとは思えないぐらいコンパクトになったのが良いですよね。
細かい話ですが、左端を平面でスパッと切り落としてあるおかげで、壁などに押し付けてシャッタースピードを稼いだり、あるいは縦構図で地面や机に付けたりもしやすいです。どういう風に使われているか、本当によく見て製品を作っているんだろうなと感心します。
色気や飾り気のない実用一点張りのカメラなので(Urban Editionなどの限定モデルなら多少マシかと)眺めて楽しいものではなく所有欲を満たしてはくれませんが、そんな暇があったらとにかく撮れということです。「最強のスナップシューター」を信条とするGRシリーズにとって、このさり気なさも当然重要な要素でしょう。
GR IIIとGR IIIxの外見上の違いは、前面のレンズスペック表記と底面のラベルに書かれた機種名ぐらい。あとはGR IIIxの方がわずかにレンズ部分が厚いようですが、並べなければまず分からないでしょう。28mm/40mmの2台持ちをするなら、どちらか1台はデコレーションリングの色を変えておくのが吉でしょう。
操作系もGR IIIとまったく同じ。限られたスペースに可能な限りのボタンやダイヤルが詰め込まれており、カスタマイズ性も十分なので、主要な操作は無駄なく行えます。左側面の1ボタンを除き、操作は右側ですべて完結するので、片手でサクサク撮れるのも良いところ。
SDカードスロット(UHS-I)とバッテリーは同じスペースに配置。バッテリーはAPS-C機としてはかなり小さく、撮影可能枚数も約200枚とさすがに厳しめな数値。
CIPA基準の枚数より実際の使い方だと全然撮れるじゃん、っていう機種も少なくないのですが、GR III/GR IIIxに関しては額面通りな感じですね。撮影目的でないお出かけの途中にサッと取り出して撮る分にはこれで十分とも言えますが、バリバリ使うなら予備バッテリーはあった方が良いかも。
とはいえUSB Type-Cで充電できるので、モバイルバッテリーがあれば高価な予備バッテリーまではいいや、って人も全然いると思います。初手で気合いを入れて予備バッテリーまで買い揃える必要はなくて、継ぎ足し充電で済みそうか様子を見てからでもいいと思います。
機能チェック:意外と多機能なスナップシューター
GRといえば硬派なスナップシューターというイメージが強く、余計なことは考えず無心にサクサク撮って行くカメラなのかなと無意識に思っていましたが、じっくり触ってみると意外と多彩な機能を持っているんですよね。
多重露出なんかもカメラ内完結で作れますし、イメージコントロール(他社で言えばピクチャーコントロールとかフィルムシミュレーションみたいなやつ)も撮って出しで雰囲気のある写真をパッと出したい時には重宝します。


HDR撮影もできますよ。スマホカメラのHDRのように暗所をガツンと持ち上げてのっぺりとした全体的に明るい写真にするものではなく、妙に陰影がくっきりしたダークな絵画調の表現になるので、実用的なHDR機能というよりは一種のフィルターとして見ると面白いです。ドライブモードの選択肢としてのHDR機能ではなく、あくまでイメージコントロールの一種としてのHDR“調”という名目ですし、実際そういうお遊び要素なのでしょう。
あとは「フルプレススナップ」なども有名な機能ですね。これは通常の「シャッターボタン半押しでAF合焦→全押しで撮影」という流れをすっ飛ばして、いきなり全押しすればあらかじめ設定した焦点距離で速射してくれるという機能です。パンフォーカスで撮りやすい28mmの方のGRならそれなりに使いどころがあるのですが、40mmだと個人的にはあまり使わないかも。
(ま、そもそもウィーンウィーンと音を立ててノロノロ動作する前時代的なAF性能を改善してくれればこんな機能は要らないんじゃないかというツッコミどころもあるのですが……)
反対に28mmよりも40mmの方がありがたみを感じられた機能は、やはり手ぶれ補正。GR IIIで初搭載されたものの「28mmごときで手ぶれ補正なんて要らないだろう」と考えていましたが、焦点距離が伸びた分、役立つ場面も増えてきます。



それから、いくら潔く単焦点のカメラを選んだ人でも、とっさに他の画角が欲しくなる場面は少なからずあるはず。GR IIIxにはクロップ機能があり、40mm/50mm/71mmの3つの画角を仮想的に切り替えられます。どうせデジタル処理なんだから無段階のズームでもいいじゃないか(ADJ.レバーもあるし)という気もしなくはありませんが、きっとそこはあくまで足を使って構図を作る単焦点の撮影体験を汚したくはないのでしょう。
実写テスト:GRらしさはそのまま、明確に「切り取る」画角が良い
ここからは作例……と呼ぶのはおこがましいですが、実際にGR IIIxで撮った写真をお見せしつつ、写りについて語っていこうかと。以下の作例はFlickrに上げたものを埋め込んであるので、拡大して見たい方はリンク先でどうぞ。
40mmという画角は、35mmや50mmと比べて歴史的には“半端”な画角です。しかし、APS-Cと35mm判の異なるセンサーサイズのボディが同一システム・同一マウントで共存することが珍しくない現代においては、どちらのユーザーにもギリギリ標準域の単焦点レンズとして売れる都合の良さからジワジワと存在感を増しています。
その商業的な嫌らしさはともかく、換算40mmのGR IIIxにおいては「被写体を選び、切り取り、引き立てる」という写真撮影の根源的な楽しみが換算28mmのノーマルGR IIIとは段違いです。しかし、これが50mmまで行ってしまっていたら、十分に引けず撮れないという場面も増えてしまうはず。画角の持つ力と、大抵の場面をなんとか写真に収められる対応力のバランスが実に程よいのです。
もうひとつ、40mmで良かったと実感できる場面はテーブルフォトですね。私は基本、飲食店ではカメラは出さずスマホ撮りなのですが、GRならいいかなと思えるステルス性がありますし、立ち上がったり腕を伸ばしたりせずスマートに撮れるワークディスタンスの短さもいい感じ。30cm以内の場合はマクロモードに手動で切り替えないと合焦しないので、その境目がテーブルフォトでは絶妙に判断に迷うラインにあるのが玉にキズかな。
これだけ小さなカメラ、そして小さなレンズなのに、ちょっと絞ってやれば期待以上にカッチリ撮れるのは立派。28mm版ほど周辺減光や端の描写の甘さも感じません。思いのほかGRっぽいクセがなく、変に意識せず使えます。
じゃあ開放のボケは?というと……これも結構なめらかでいい感じですよ。邪推かもしれませんが、固定ファンがいて良くも悪くも“GRらしさ”に縛られてしまう28mm版より、新しい画角への挑戦で自由にやれている40mm版の方が惜しみなく現代的基準で良いレンズを作れているような印象を受けました。
玉ボケも形は良いですよね。5群7枚(非球面レンズ2枚)のシンプルなレンズ構成のおかげでしょうか。
ここで現実に引き戻されたのは「夜スナップには絶望的に向かない」ということ。APS-C化以降のGRすべてに言えることですが、センサーが大きいからと言ってイマドキのAPS-C機レベルの高感度耐性を求めてはいけません。ISO 1600ぐらいからザラッザラです。
ただ、カラーノイズも輝度ノイズも派手に出る割には、いなし方がうまいカメラでもあります。28mmの方を買った時の初見では「なんか富士フイルムのグレインエフェクトみたいな機能入ってる?」と勘違いしたぐらいで……要するにフィルム的な粒状感の演出かのように見せるのがうまく、嫌味じゃないノイズの出し方をしてくれるんですよ。趣味性の高い撮影なら“GRの味”として許容できます。
イメージコントロールでは「ハードモノトーン」が一番のお気に入り。元々、カラー撮影でも露出がアンダー気味で色調もドライな記録色寄りのカメラなんですが、それを突き詰めた先にある表現はこれだろう、と。シャドーがよく粘るのでめちゃくちゃ重厚感が出てカッコいいですし、特に金属のダクトなんか撮ると質感がどえらいことになります。
総括:スマホに居場所を奪われないコンデジ。28mm版を買わずにこっちだけ、というのも全然アリ
熱心なGRファンからすればGRシリーズの本流は当然28mm、GR IIIxは2台目として検討すべき派生機種ということになるのでしょうが、個人的にはあえて1台だけ買うなら40mmのGR IIIxの方が価値があると断言します。これは一代限りで終わらせてはならず、28mmと並ぶGRの新定番として次世代以降にも残すべき傑作です。
たったひとつの画角のレンズだけをポケットに入れて出かけようという時に、決して万能ではなく40mmを選ぶというのは尖った選択のようにも思えますが、それは一昔前の話。今は誰もがスマートフォンという「万能なカメラ」を持っていて、あえてカメラ専用機を別に持つというのは相応の感動を与えてくれる写りでなければ意味がない行為です。そういう意味ではマンネリ化しやすい広角よりも、「スマホじゃ撮れない写真」が生まれやすい40mmの方が+αで持つ価値は高いのではないでしょうか。
スマートフォンの普及によってカメラ業界、特にコンデジというジャンルは滅亡寸前まで追い込まれ、比較的安泰とされていた高級コンデジですらいよいよ元気がなくなってきた現状。生き残れるとしたらこれぐらい尖ったカメラなんじゃないかと思います。もし今後ラインナップの取捨選択を迫られる局面が来た時、安易に「GRは28mmでいい」と切り捨てられてしまわないよう、切に願います。

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