4年ぶりのスマートウォッチとして「Pixel Watch」を使ってみた所感

デジタルガジェット

デジタルガジェット、特にモバイルデバイスは大好物なのですが、スマートウォッチだけはどうもあまり興味が湧かんのですよ。

どうでもいい通知がいちいち手首を震わせる「現代の手錠」じみたユーザー体験が気に入らないとか、そもそも健康だの安全だのてめえは保険商品か?と言いたくなるしゃらくさい売り文句とか(今のiPhoneが1ミリも欲しくならないのもそこだろうなぁ)、いろんな意味で僕らが夢見た未来のデバイスはこれじゃない感。そうは言いながらもちゃんと使ってみたことは何度かあって、どれも魅力的ではなかったからもういいや、と自分の中で一区切り付いてしまったからという理由が大きいです。

さて、そんなスマートウォッチ否定派の私でも、長年出る出ると言われ続けてようやく登場したGoogle謹製スマートウォッチ「Pixel Watch」ぐらいは知識のアップデートも兼ねて買ってみようかなとうっすら思っていました。予約して買うほど期待してはいないので(ポチってから2週間待ちとかだとモチベが保たなそう)、しばらくしてから都内の家電量販店に突発的に入荷されて即日持って帰れるタイミングでぬるっと買いました。

ちゃんとしたレビューはもうあちこち載っていると思うので、テキトーに思ったことを書き散らしておきます。ちなみに最後に使ったスマートウォッチはGalaxy Watch(2018年発売/Tizen)、Android Wear/Wear OS系だとFOSSIL Q Explorist Gen 3(2017年発売)以来の利用です。

良い点①:(一応)Suicaが使える!

Pixel Watchを買うべきかどうかは、ほぼこの一点に尽きます。たとえ定期券やグリーン券が入らないとしても、使い勝手が悪いとしても、Android系のフル機能のスマートウォッチで改札を通れるのは現状これだけですから。少なくとも日本においては強力な目玉機能を得ています。

スマートウォッチとしての機能がそこまで要らないならwena 3やFitbit、GARMINの選択肢もあるとはいえ、Androidスマートフォンとの組み合わせでもApple Watchみたいな使い方ができるスマートウォッチが出てきたというのは大きいですよね。これを待っていた人は少なからずいるでしょう。

良い点②:Googleマップのナビ連携はけっこう便利

過去にAndroid Wear/Wear OSのスマートウォッチをいくつか使っていた時期があり、一応最近の機種の情報も追ってはいたので、発表直後のPixel Watchの印象としては、Suica対応とFitbit統合以外はあまり目新しい機能はないなと正直ガッカリしていました。

でも、Googleマップは使ってみたら便利じゃん!とテンションが少し上がりましたね。これはPixel Watch専用の機能というわけではなく、数年離れている間に増えた一般のWear OS搭載機でも使える機能なのですが、スマートフォンのGoogleマップで経路検索をしてナビを起動すると、自動的にスマートウォッチの画面にも簡易的な地図と道案内が表示され、なかなかいい感じのチームワークを見せてくれます。

徒歩/自転車/車のみに対応しているようで、電車移動の前後や途中に徒歩区間があるパターンでは起動してくれないのが惜しい。でも、小さい画面でもそれなりに見やすく作られていますし、ナビ代わりのスマホの設置が難しかったりあまり見られなかったりする二輪系だと悪くないんじゃないかなって気はしますね。

良い点③:丸型の中でも親しみやすいグッドデザイン

好き嫌いはあるでしょうけれど、角型でいかにもデジタルガジェットの延長という印象のApple Watchよりは……というのもそうですし、Android Wear初期から出てきた数々の丸型スマートウォッチの中でも良い線行ってると思います。

41mmというケースサイズはあとほんの少し小さい方が誰もが着けやすいかもしれませんが中々悪くないサイズ感ですし、本体には印象を決めてしまうような余分な装飾はなく非常にニュートラルなデザインで、個性の演出はストラップに委ねられているので人もシーンも選ばず比較的使いやすそうです。

碁石のような丸っこいフォルムで厚みが気になるという人もいるようですが、個人的にはむしろ厚みに関してはうまく処理できている方かと。Wear OS系の丸型スマートウォッチって、けっこう現物を見るとゴツすぎる印象の物が多かったんですよね。

あと、細かい点ですが、スライド式のストラップの着脱機構はとても気に入りました。接続部を隠し切った構造、そして本体に溶け込むように配置されたボタンのおかげで、初期装備のシリコンバンドなら曲線的なボディから直接バンドが生えているようなミニマルなデザインになりますし、レザーバンドや今後発売されるメタルバンドはバンドだけでなくそれぞれの特徴に合わせて付け根部分から作り分けられています。

いわば、バンドだけでなくラグごと着せ替えられるような構造で、キャラクターをあらかじめ決めてしまわない素体として優秀なデザインです。

悪い点①:電池持ちが絶望的に悪い

ここからは悪い話。まずは気になる電池持ちですね。24時間持つかどうか……通知を最低限の内容に絞っている私の場合で24時間は持つ、という程度。何年かけて作ったのか知りませんが、SoC(Exynos 9110)も電池持ちも数年前のスマートウォッチのレベルです。

あまり具体的なイメージが沸いていないと「スマートウォッチなんて毎日充電するんだから、24時間持てば十分じゃん」と思われるかもしれませんが、毎日充電するとしてもジャスト24時間しか持たないのって結構不便ですよ。

今時のスマートウォッチは睡眠ログも含めて24時間着けるのが前提になっていますから、外出前の身支度をしている間や入浴中など、わずかな時間を見つけて充電することになります。忙しかったり予定があったりして数時間リズムが崩れると力尽きてしまうというのはあまりにもシビアです。

悪い点②:充電周りの不可解な対応

電池が持たないならこまめに充電すればいいじゃない! ……そうですねぇ。自宅だけでなく会社のデスクでも充電できれば安心ですし、Qi対応スマートフォンのバッテリーシェア機能が使えれば最終手段として頼れそうです。

ところが、「Pixel Watchはワイヤレス充電ができそうで出来ない」という結論が出ています。Qi対応の充電器に置くと充電中の表示は出ますが、実際のバッテリー残量は増えなかったり、むしろ減っていったりします。技術的にQiをベースにしていることは明らかですが、少なくとも現状では純正のマグネット充電ケーブル以外での充電はできないのです。

これ自体はApple Watchも同じなのでdisるほどのことでもないのかもしれませんが、肝心の純正ケーブルの供給体制が弱く、タイミングによっては付属品1本でしばらくやりくりするしかない状態のユーザーも少なからず発生していたのは良くないですね(執筆時点では一応買えます)。

Qi開放とは言わないまでも、サードパーティ製マグネット充電ケーブルぐらいは出てきてほしいところ。家で使うならケーブルじゃなくてドックが欲しいですし、外で使うならApple WatchにあるようなUSB直挿しのドングル型の方が便利ですし。

悪い点③:SuicaやFitbitの後付け感

前半でも書いた通り、「Suicaが使えるAndroid系スマートウォッチ」という一点だけでもPixel Watchの登場には価値があります。

ただ、そこは一般のメーカーではなくOSやプラットフォーム自体の提供元でもあるGoogleの製品ですから、「力業でなんとかSuicaを入れました!」というその場しのぎの増築ではなく、Google Payのシステムにしっかりと組み込み、自然にストレスなく使えてWear OS全体の今後の繁栄につながる実装方法が望ましいはずです。

残念ながら現状のPixel WatchのSuicaの扱いはかなりぐちゃぐちゃで、カードの入れ替えやスマートフォン側からの残高管理などあまり使いやすいとは言えません。理想を言えば、スマートフォンのGoogle Payアプリからスマートフォン/スマートウォッチ両方に登録されている決済手段の管理が全部できるぐらいまで行くといいんですけどね。

Google傘下になったFitbitの機能を取り込んだことも本来なら良いアピールポイントになるはずですが、こちらもSuicaと同じぐらい後付け感が漂っています。なんたって、Pixel Watchの管理用アプリとは別にFitbitのアプリを入れてアカウントまで作らないといけないんですから……到底スマートとは言えません。数年後、Google FitとFitbitが融合するフェーズまで行けば自然と解決するのかな。

悪い点④:お高いアクセサリーを本当に買って良いのか信じ切れない

これは印象論でしかないのですが……Googleの新規事業、しかもハードウェアが絡むものとなるとまともに続かないことが多々あるので、いちユーザーとしてはPixel Watchにお金をつぎ込んで本当に大丈夫なのか?という不信感は拭えません。最近だとクラウドゲーミングサービスの「Stadia」が放り投げられて専用コントローラーがゴミになったのが記憶に新しいですね。

Pixel Watchのマグネット充電ケーブルは3,800円。交換バンドは付属品と同じタイプで6,300円、来春発売予定のメタルバンドは25,800円もします。Pixel Watchというシリーズがまともに続くかも分からない(ましてや初物がこの出来では……)、仮に続いたとしてバンドの流用が可能な形状で健全なシステムを築いていってくれるとも限らない状況で、このアクセサリー展開はだいぶ強気だと思います。

悪い点⑤:初物感出してるけどキミ初物じゃないよね?と突っ込みたくなる完成度の低さ

マイナートラブルの情報収集も含めてSNS上でのPixel Watchのクチコミとか結構見てたんですが、意外と「初物だからしょうがないよね~」って感じで諸々の不出来は許してる、人柱感覚で楽しんでいる人も多いことに驚きました。それ自体はこれまでAndroid系のスマートウォッチに関心を持たれなかった層にリーチできているということであり、Pixelのブランド力が付いてきているということでもあり、良いことだとは思うんですけれど……

8年前のGoogle I/Oで「Android Wear」として生を受けた時から成長を見てきて、何機種も触ってきた人からすれば、「いや、お前初物ちゃうやろ?なんならApple Watch先輩より年上やん。いつまで新人ぶってチヤホヤされてんの」って感じなんですよね。

4年ぶりに、それも主導者であるGoogleのリーディングデバイスを触っているのにほぼ進化を感じられないのWear OSの停滞ぶりにもガッカリですし、日本ではSuica、海外ではFitbitのネームバリューにあぐらをかいて、現状の停滞したWear OS搭載機の中ですらベストではない陳腐なハードを自他のブランド力だけで売り込もうとするGoogleの姿勢もあまりに残念。

根本的なWear OSスマートウォッチの価値創出は一朝一夕には難しいにしても、せめてPixelスマートフォンとの連携だけはまともな状態にしてシリーズで買い揃えるメリットを明確にしてから投入しなければ、看板に傷を付けて他のPixelシリーズの足を引っ張るだけでは?というのが率直な感想。

これなら「Fitbit初のWear OS搭載機」を名乗ってGoogleサービスとの段階的な統合のきっかけになる製品にした方がマシだった気がします。少なくとも、長年待ち望まれた「Pixel Watch」の名で売ってWear OSの旗艦としての期待に応えられるレベルの製品ではないです。

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