10年前の中古デジタルカメラに十数万も払うのは如何なものか ~Leica X Vario(Typ107)~

カメラ

Leica X Vario(Typ107)という10年前のデジタルカメラを買いました。新品当時の価格は34万円ぐらいで、中古での入手価格は16万円ぐらい。

デジタルカメラなんてすぐに陳腐化する商品で、美品というわけでもなければ箱や付属品が揃っているわけでもないのに、10年経ってこの相場はちょっと(だいぶ?)過大評価されていると思いますが、やっぱりブランド力でしょうかね?

こんな傍流の機種のボロを“ライカだから”で買って「憧れのライカを買っちゃいました」とかほざいてる奴はみっともないとしか思えませんが……ライカだから欲しかったわけではない人からすれば、イカれた相場に付き合わされるのも彼らと同一視されるのもはた迷惑な話です。

ブランド目当てでないなら、お前はなぜこんな骨董品を探して買ったのかって?それは、このカメラが世界におそらく2機種しかない特殊な存在だからです。

史上2機種しかない「APS-Cのズームレンズ一体型デジタルカメラ」

Leica X Vario(Typ107)は2013年6月に発売されたAPS-Cセンサー搭載のレンズ一体型カメラ。Leica X1やLeica X2に続いて登場した本機種は、シリーズ初のズームレンズ「VARIO-ELMAR f3.5-6.4/18-46mm ASPH.」を搭載したことが最大の特徴。

この「APS-Cセンサー+ズームレンズを搭載するレンズ一体型デジタルカメラ」というのは、X Varioのほかにはキヤノンの「PowerShot G1 X Mark III」(2017年11月発売)しか存在しない極めて珍しい構成です。それをライカがやったというところにも意外性があって面白いですよね。

ライカのコンデジというと、協力関係にあるパナソニック製品の見た目をいじっただけのバッジエンジニアリングのみっともない商品が多く下に見られがちですが、Xシリーズは現在のQシリーズと同じMade in Germanyの純血種です。細かいことを言えばオプションの外付けEVFをオリンパスから仕入れていたり、大量生産でないゆえの弱点をうまく補っているところはありますけどね。

当時の力の入れようの一端をうかがえるエピソードとしては、発表前のティザー段階では“Mini M”なんてあだ名が付けられていました。ズームレンズを積むキャラクターからするとミスマッチにも思えますが、全体のフォルムやトップカバーの形状など、デザインにM型のエッセンスを取り入れているそう……うーん、ファインダーがないせいかどうも似ても似つかず、あまりピンときませんね。バルナックオマージュのX1/X2の方がそれらしさを感じられる気がします。

レンズに記された焦点距離は実焦点距離ではなく、35mm判換算の数値。レンズ交換式でもありませんし、何かのサブ機として手にした人が多いでしょうから、いちいち頭の中で計算するよりはこの方が馴染みやすいでしょうね。

軍艦部を見ると、X Varioの時点で後のQシリーズに続く操作系統がほぼ固まっているのが分かります。ダイヤル配置もそうですし、特徴的な単写/連写切り替え機能と一体になった電源レバーも初代Qまでは同じですよね。AFで撮っている最中にピントリングを触ればすぐにMFに移行できるのも同じですが、Q以降で見られるロック付き指かけはまだありません。

レンズ一体型ではありますがコンデジと言えるほどコンパクトではなく、一般的なAPS-Cミラーレスにキットレンズをつけたぐらいのサイズ感。バッテリー込みで約628gと初代Qと同じぐらいの重さで寸法もそれほど変わらないので、実はAPS-Cだからといって後のフルサイズ機より小柄なわけでもなかったり……

左上の丸い部分はポップアップのストロボ。Xシリーズ各機種に共通するチャームポイントです。凝った構造で斜め上に向かってニョキッと伸びるのがかわいい……ただ、その構造が災いして、内蔵フラッシュを指で押さえて使う「天井バウンス」の裏技は使えません(展開途中で真上に向かないんです)。

いかにも海外からやってきた感じのするダサめの日本語フォントはさておき、設定メニューはとてもシンプル。メニュー構成がよく出来ているという意味ではなく、単純に設定項目が少なく、全項目が羅列されていても5ページしかないので迷いようがありません。ごちゃごちゃした機能に頼るのではなく、シンプルかつストイックに写真を撮る道具という意味では「らしさ」を感じます。

マップカメラで買ったら、わざわざメーカー検査済みの証明書付きでした。いかんせん古い物なので少しでも安心して買えるようにしてくれているのはありがたいです。そういや、マップカメラの会社(シュッピン)はライカブティックもやっていますもんね。

Leica X Vario(Typ107)で撮った写真

御託は十分並べたので、実際に撮ってきた写真を見てみましょうか。作例はFlickrにアップロードしたものを埋め込んであるので、必要に応じてリンク先で拡大して見てください。

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あくまで10年前のデジタルカメラですから、AFは遅いし外すことも多々あり(タチの悪いことにMFアシストも微妙な出来で粗くて見にくい)、色だって的外れなものが上がってくることも多々あります。いや、古いからというよりはライカだからか……AFでズームまで付いているとしても、カメラまかせでシャッターを押すだけでインスタントに誰でも同じ写真が撮れるようなカメラでは決してありません。

その代わり、当たれば相応の画は出てきます。ビミョーなデジタル部分と切り分けて認識するのが難しい上、換算28-70mm/F3.5-6.4という数値上の地味さも手伝ってあまり評価されていないように思いますが、レンズはさすが、素晴らしい出来です。

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焦点距離を問わず(と言いつつ広角の写真が少なくてすみません)ズームだからという安易な妥協がなく精緻に描き込まれていますし、決して明るいレンズではないので目の当たりにできるシーンは少ないものの、ボケ質も非常になめらかで点光源をぼかしてみてもズームレンズとは思えないほど整った玉ボケになります。

実はこの記事を書く前に、何を買ったかは伏せたままTwitterのフォロワーたちと機材当てクイズに興じていたのですが、上の写真を出したらみんな実際よりも明るいレンズと予想してきたのが印象的でした。まぁ、こんな地味なスペックでここまで質の良いレンズって普通ないですもんね……

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ライカのモノクロは特別だからというのが半分、単純にカラー写真ほど古いデジカメのクセと格闘せずに済んで気が楽というのが半分……無性にモノクロ写真をやりたくなるカメラですね。

おまけ:失敗例

あまりブログに恥ずかしい写真は載せたくないのですが、こればっかりは夢を見せすぎても良くないので現実を見せておきましょう。

完全な逆光とまではいかなくても、日の当たっている部分と日陰が画面内に混在しているだけでこの有り様(一応これでもマルチ測光)。

今時のカメラならなんともない場面でもあっさり破綻するので、否が応でも初心に戻って「光をよく見て考える」ことになります。少しでも不利な条件でゴリ押しすることはできず、経験や知識がもろに打率に影響するカメラです。

フィルムモードという設定項目で「標準」「Vivid」「Natural」「白黒Natural」「白黒High Contrast」という5種類のモードを選択できますが、センサー/エンジンの性能的にあまり表現の幅がないので、これも好き勝手に選び放題というわけにはいきません。

まともな作例としてお見せした写真はすべて標準か白黒High Contrastでした。他のモードがまったく使えないというわけではないのですが、Vividは簡単に色飽和するので使いどころが難しいです。普通のモノクロも悪くはありませんが平凡というかぼんやりと締まりのない印象で、ハイコントラストモノクロの方が断然このカメラで撮る意味を感じられます。

まとめ:おすすめはできないが挑み甲斐はある

当然ながら、10年も前の中古デジタルカメラに16万も出すなんて愚行を勧めることはできません。なんでもいいからライカを首から下げておけば満足な人か、こじらせすぎたカメラオタク以外には不要。私とて、別に現在最も優れたAPS-Cスチルカメラと言っても過言ではないX-T5を持っているからこそ、こんな難儀なブツと心穏やかに戯れられるようなものです。

X Varioを知ったきっかけは「APS-Cズームレンズ一体型コンデジ」というフォーマットがまさに私の思い描く終着点のひとつと一致していたためですが、もちろん10年前のデジタルカメラ(しかもライカ)に実用性なんて求めるだけ無駄なので、その理想を叶えて上がれると期待していたわけではなく、機材への興味と自身の腕試しに近い感覚で購入しました。それ以上でもそれ以下でもない遊びのカメラとして持っています。

話を戻すと、モノとしての作りやレンズは一流、デジタルカメラとしては……というのが正直な評価。この機種をご指名で買っていいかと聞かれたらもちろんダメだと答えますが、実際問題、これって「古いから」が半分、「ライカだから」が半分で、デジタルのライカを買うなら程度の差はあれど絶対に直面する現実なんですよね。いきなり100万円前後払って大怪我する前に、予行演習としてX1/X2/X Vario/初代Qあたりを試してみるのは悪くないかもしれません。

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