Alder Lake-P搭載ミニPC「Intel NUC 12 Pro」(Wall Street Canyon)を組んだ話

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Intelの小型デスクトップPCベアボーンキット「NUC 12 Pro」のCore i3モデルを購入しました。目的としては、ノートPC+外部ディスプレイ(ほぼ繋ぎっぱなし)で運用していたメイン環境の移行です。PCレビュアーではないので大したことは書けませんが(先に断っておくとベンチマークはやりません)、備忘録を兼ねて色々書き残しておきます。

「NUC 12 Pro」のCore i3モデルを選んだ経緯

ここは割と個人的な話も入っているので、単純にNUC 12 Proのことを調べていてたどり着いた方は全然読み飛ばしていただいて大丈夫です。

ノートの意味なくね?→次は小型デスクトップにしよう

冒頭で触れた通り、元々はノートPCをメインで使っており、家では外部ディスプレイとキーボード、トラックボールを繋いでノートPC本体には電源を入れる時ぐらいしか入れないという、Macで言うところのクラムシェルモードに近い運用スタイルに長年落ち着いていました。

それなりの理由があって元々はそれが何かと好都合だったのですが、ここ1年ぐらいは個人的な環境の変化もあり持ち出す機会がほとんどなくなってしまいましたから、これはもうノートPCである意味がないな、と。

再びその運用が必要になる可能性はそこそこあるものの、不確実な先々の備えで無駄に選んでおけるほど今はノートPCも安くありませんし、そうなったらその時に考えればいいでしょということで、今回のメインPC更新ではひとまずデスクトップに移行することにしました。

とはいえ、Twitterしてブログ書いてYouTube見て、たまに写真を処理する(撮って出し主義に近いのでRAWを触ることはほぼない)程度であり、ゲームをやったり動画編集をしたりするわけではありません。そのためにわざわざバカデカい箱を設置したり、ああでもないこうでもないと相性やトラブルに悩まされたり、電気代に泣かされたりしてまでガチのデスクトップPCを組む必要性も気概もないので、ミニPCとか小型デスクトップと呼ばれるジャンルのもので十分だろうと判断しました。

最初は完成品のRyzen搭載ミニPCを検討していたけれど……

実を言うと置き換え前のノートPCもまだまだ新しいもので性能不足は感じていなかったので、性能面では、せっかく置き換えるなら旧PC(Core i5-1135G7 / Tiger Lake-UP3)より多少速くなったらうれしいかな?程度のゆるめの条件でした。あとはやはりコストを理由に小型デスクトップを選ぶ以上「普通にノート買えたね」という値段になってしまうと本末転倒ですから、予算はできれば10万円ぐらいには収めたいところです。

まず候補に挙がってきたのは、中国系メーカーの組立済ミニPC。特に真剣に検討していたのはMinisforumです。複雑なラインナップを解読し、やや予算オーバー気味だけどAMDのモバイル向けAPUでは現状最強のものが載る「UM690」(Ryzen 9 6900HX / 32GB / 512GBの構成で103,520円)にするか、コスパ的においしい感じな上に何気にUSB PDで運用できるのでうちのモニターと合わせるとスマートに運用できそうな「UM560」(Ryzen 5 5625U / 32GB / 512GBで69,590円)にするか……というところまで絞り込みました。

Minisforum UM690

ここで答え合わせぐらいのつもりでTwitterに思考を垂れ流してみると、複数の有識者(私が常日頃YouTubeの配信ばかり見ていることやゲームはやらないことも知っており、私よりはPCに詳しいはずの人たち)から「動画視聴が多くて複窓とかまでするならAMDよりIntelの方が絶対いい」(要約)というご意見をいただきました。

動画再生支援機能やドライバの問題、モバイル向けAPUに限れば直近の世代のものを選ばないとGPUコアが古いことなど具体的な理由としては各々違うものが飛んできたのですが、総じて「内蔵グラフィックス利用でゲームしないならIntelの方がいい」という意見は一致していたので、きっと信用に足る助言なのでしょう。ここで、そういえば過去に使っていたRyzen搭載機(ThinkCentre M75q-1 Tiny)でもスペック的には余裕なはずなのにYouTubeカックカクだったな……という思い出が蘇ってきたので、ここはやはりIntelにすることにしました。

で、Ryzenを除外すると良い感じの安いミニPCって激減するんですよね。しかも、Alder Lake-P以上じゃないとわざわざ買い替える意味がないな……となると、候補がかなり限られてきます。目ぼしいものは、検討時点では出荷開始前で多少待つことになるMinisforumの新型「NUCG5」(Core i5-1240P / 32GB / 512GBで92,980円)か、Beelinkの「SEi12 pro」(Core i7-1260P / 32GB / 500GBで118,000円)ぐらいでしょうか。

Beelink SEi12 pro

うーん……正直な話をすると、何かあった時に修理・交換の対応がめんどくさくなることが確定している中小海外メーカーの直販製品に10万円前後を出すのは、内容的には安くてもだいぶ抵抗があります(まぁMinisforumに関しては、少しお得感と構成の自由度が下がっても良ければ国内代理店取扱品もあるんですが)。すっっっごい失礼なんですけど、個人的な感覚としてはその手のものに払えるのは壊れても対応を求めるまでもなく笑ってポイで済む範囲で、10万円前後まで行くとちょっとキツいかなと思っています。

結局Intel CPU搭載の組立済ミニPCではピンとくる物がなかったので、こうなったらIntel純正のNUCキットを買ってきて自分で組むしかねーか!という結論に至りました。

NUC 12 Proの中でCore i3モデルを選んだ理由

現行のNUCでメイン機として通用するスペックのものとなると、大きく分けて3種類。NUC 13 Extreme(ゲーマー向けでグラボも入るでっかいやつ)、NUC 12 Enthusiast(Arc A770Mが入ってるマニアックなやつ)、NUC 12 Pro(見慣れた小さいやつ)です。まぁ、ここまで書いたような用途・条件だと考えるまでもなくNUC 12 Proになりますね。

NUC 12 Pro(開発コード名:Wall Street Canyon)は、NUCといえばコレだよねという感じの11cm×11cmの小さなボディに、モバイル向けの第12世代Coreプロセッサー(Alder Lake-P)を搭載した製品。ベアボーンキット(半完成品)として売られており、メモリとSSDを別途買ってきて組み込み、OSをインストールして完成となります。

搭載CPUはCore i7-1260P(12C/16T)、Core i5-1240P(12C/16T)、Core i3-1220P(10C/12T)から選べて、上下でだいたい4万円ぐらいの価格差があります。ちなみにCore i5/i7モデルは2022年9月発売、Core i3モデルは2023年1月に発売されたばかり。

ほんの少し前まではモバイル向けのi3なんてi5以上とは雲泥の差、それでいてさほど安く上がるわけでもないという哀れな存在でしたが、今世代はi3の性能向上が大きく、性能的には十分イケるし費用対効果も高いと判断しました。

Alder Lake-Pはコア数/スレッド数が増えたことに加えて消費電力の枠組みも変わり、前世代との性能差はそこそこあります。理想的な環境におけるCPUベンチマークスコアであれば、Core i3-1220PでもTiger Lake-UP3(第11世代の一般的なノートPC向け。i5-1135G7とかi7-1165G7あたり)を大幅に上回るのはもちろん、第10/11世代のCore Hシリーズ(ゲーミングノート向け。i7-10870Hとかi5-11260Hあたり)と互角ぐらいのポテンシャルがあります。

ノートPC(特に薄型のもの)ではメーカーの熱設計と電力制限の実装次第で実際のパフォーマンスが大きく変わるため、CPUの型番だけを見ても実性能の見当がつかなくなったという意味では難しい世代ですが、ノート用のCPUをノートよりは多少余裕のある筐体と外部電源で遠慮なく回せるNUCにおいては、燃費を気にしなければ直近世代のHシリーズに迫るパワーを出せるAlder Lake-Pは好都合です。

CPUパワーでは迷わずi3でも十分と判断しましたが、懸念点は内蔵グラフィックスの貧弱さ。i5以上は「Iris Xe」、i3以上は「UHD Graphics」という差別化が図られているのは従来通りですし、これを見た時点で「やっぱりいつものi3か」となってしまうかもしれません。ただ、実は第12世代以降のUHD Graphicsってちょっと良くなってるんですよね。実行ユニット数が64EUまで増え(Iris Xeはi5で80EU)、少しデチューンされたIris Xeぐらいにはなっています。

モバイル向けのi3でUHD Graphics、という情報だけだと敬遠してしまいそうですが、実はこの世代のNUCでコスパ的においしいのはCore i3-1220P搭載モデルなんじゃないかと思います。

今回組んだマシンのパーツ構成

NUC 12 Proキット(NUC12WSHi3):56,800円(ツクモ)
Crucial DDR4-3200 SO-DIMM 16GB×2(CT2K16G4SFRA32A):11,800円(ツクモ)
Solidigm P41 Plus 1TB(SSDPFKNU010TZX1):9,280円(ツクモ)
アイネックス 電源ケーブル(ACP-C5180A):980円(ヨドバシカメラ)
合計:78,860円(※別途、OSライセンス費用)

今回購入したものは上記のとおり。各自で別途用意するものは少なく、メモリとSSD、OSライセンスさえ買えば動きます。あっ、あと電源ケーブルも。

ACアダプタは付属しているのですが、その先のケーブルはなぜかずっと別売のようです。汎用性のある規格なので(C5とかミッキーとかいうやつ)使わなくなったノートPCのACアダプタがあれば一度確認してみると良いでしょう。メーカーによってはこの形状なのでわざわざ買わなくても流用できます。

Alder Lake世代なのでCPU的にはDDR5をサポートしていますが、NUCはDDR4なので買い間違えないように。3,200MHz縛りだと思いのほか選択肢が少なく、特にこだわる余地もなくCrucialになりました。仕様上は64GBまで積めますが、i3を選んだ時点で上を目指す気はないので手堅く32GBで。

せっかくIntel純正NUCを組むならSSDは元IntelのSolidigmにするのが粋だよね!というどうでもいいこだわりで、P41 Plusを選んでみました。まぁ、これはIntel時代からの継続品ではなくSK hynix傘下になってからの新製品なんですが。

ただ、この思いつきがなければ当然のようにクセでサムスンを選んでいたと思います。特に情報を追っていなかったのでパーツの選定・注文を終えた後に知って驚きましたが、なんだか最近990 PROの寿命が爆速で減る問題とかでひと悶着あったらしいですね。あぶねー。

セットアップ

このパートいる?あんまりいらない気がする。そもそもシンプルだし、公式の分かりやすいガイドもあるし、歴代NUCを触ったことがある人ならそのままだろうし。一応軽く説明しておきます。

ケースを裏返して底面4ヶ所にあるゴム足兼用のネジを外すと、底板が取れて内部にアクセスできます。フタ側に2.5インチベイがある関係でフレキシブルケーブルが繋がっているのでそっと開けましょう。フレキの長さには余裕があり、着脱せずに繋げたままフタを隣に置けるので特に作業の妨げにはなりませんでした。

取り付けるパーツが少ない上にご丁寧にラベルも貼られているので、組み立て作業に迷うことはないでしょう。ストレージは今回、M.2 2280サイズのNVMe SSD 1枚のみの構成としました。このほかにM.2 2240(SATA専用)と先述の2.5インチベイがあり、小さなPCですが最大3つのストレージを組み込める拡張性があります。

メモリはノートPC用のSO-DIMMタイプ。2枚重ねとなる配置なので、下段から順番に装着します。これで元通りフタを閉めれば、ハードウェアの組み立て作業はあっという間に完了。自作経験がなくても、ノートPCのメモリ増設やSSD換装程度の経験があれば十分です。

この後の流れとしては別のPCでOSのインストール用USBメモリを作っておき、NUCにモニター、キーボード、マウスを繋いでUSBブートし、OSをクリーンインストールします。それから、Intelの製品サポートページで配布されているドライバやBIOSアップデート、各種ツールを入れて完成。配布物はやたらとたくさんありますが、コンシューマー用途ではまず不要なものもいくつかあるので片っ端から全部入れるべしというわけではないです。事前に必要なものを揃えておいてダウンロード待ちなどの無駄が生じなければ、1時間程度で完成するんじゃないでしょうか。

雑感

過去にも何度かNUCを検討したことはあったものの今回初めて手にしたのですが、想像以上に小さく驚きました。約117×112×54mmという数値からは漠然としかイメージできていなかったのですが、スマートフォンの長辺よりも短いぐらいですからそりゃコンパクトですよね。

NUCは業務用としても展開されているだけあって、外装は質素な樹脂製。ただ、シンプルでさほど見た目も悪いものとは感じません。どうしても気になる、安っぽく見えてしまうという人は、付属のプレートを使ってVESAマウントでモニター裏に隠してしまうと良いでしょう。

Core i3搭載の下位モデルでもThunderbolt 4ポートが2口もあるあたりはIntel純正らしいポイント。それ以外の端子もサイズの割にはけっこう充実しています。欲を言えば前面にもUSB Type-C端子が1つ欲しかったぐらい。

サクッと作って普段使っているソフトウェアを一通り入れ、動作確認がてら普段使いで性能的に不満が出なさそうかチェックした程度なのでまだ最終的な評価はできませんが、ほぼ目論見通りにストレスなく使っていけそうなマシンを8万円足らずで組めたので買い物としては成功と言って良いでしょう。

Core i5-1135G7のノートPCからの買い替えなのでCPU性能は大幅に上がる一方で、GPUがIris Xeではなくなり、実行ユニット数も減りスペックダウンとなるのが懸念点でしたが、4Kディスプレイ1枚にまとめた現状の使用環境ではパワー不足な印象はなかったのでひと安心。試しに「YouTube Liveを3窓しながらTweetDeckを眺める」という稀によくある状況を再現してみたところ(各配信はフル解像度ではないです)、それでもコマ落ちなどもせず安定していたので、自分の使い方では困ることはなさそうです。

うれしい誤算としては、期待通りのパフォーマンスを見せてくれている一方で、どれぐらいの設定で動いているのかな?とBIOSのPower, Performance and Cooling設定画面をのぞいてみたら、初期値は予想に反して省エネなセッティングだったんですよね。

PL1 20W / PL2 39W / Tau 28sec.というAlder Lake-P搭載ノートでもよくありそうなラインで、おまけに外装温度40度まで&ファンは静音モードというキツめの制限がかかっています。初期設定のままPrime95でCPU使用率を100%に張り付かせつつHWMonitorを眺めてみると、CPUの消費電力はPL1の設定通り20W付近で推移しており、ファン音もエアコンの音にかき消される程度の静かさ。試しにPL1を30Wほどまで上げてみても、ファン音こそ当然賑やかにはなるもののCPU温度・外装温度ともにNGではないレベルを保てていました。

Pentium/Celeronモデルと同じような筐体に性能も発熱量も数段上のパーツを詰め込むi3/i5/i7モデルのNUCは、歴代の評判を見ても「うるさい」「熱い」という声が少なくないのですが、このモデルは初期値のままなら従順でありながらそれなり以上の性能を得られる絶妙なバランスで成り立っています。動作音や発熱のデメリットを取ればまだまだ余力がありそうな様子もうかがえましたが、現状のままでも特に性能に不満はないので、当面はおとなしい設定のまま使っていくつもりです。

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