「FIAT 500e Open」試乗記

自動車

友人がなにやら珍しい車を買ったらしく、ちょっと運転させてもらってきました。商業媒体以外で触れているサイトはまだほとんどなさそうなので(少なくとも日本では)、せっかくですから記録しておこうと思います。

もったいぶらずにお見せしてしまうと、その車とは「FIAT 500e」。言わずと知れたアイコン的存在の500(チンクエチェント)のEV版で、フィアット初の純電気自動車でもあります。

いちおう日本でも昨年から納車され始めているものの、実際に街中で見かけたことがある人はあまりいないのではないでしょうか。私もディーラーの展示車でちらっと見たことあるな、という程度です。可愛らしい見かけによらず実はだいぶお高いクルマだから……というのもありますが、日本ではリース販売専用車になっている(つまり正確には買えない)という特殊な扱いも一因かも。

似たようなリース/サブスク限定扱いとなっているトヨタのbZ4Xの方で聞いた話ですが、いま主流になっている残価設定型のローンとEVの相性が悪い(需要の変化やバッテリー劣化でリセールバリューを読みにくい)とか、CEV補助金の落とし穴ともいえる“4年縛り”との兼ね合いとか、EVがこういう売り方に落ち着きがちなのはそれなりの道理があるっぽいですね。

ひとまず外観からチェック。ひと目でチンクとわかるシルエットですが、EVらしいグリルレスなお顔を中心にディテールはけっこう変わっています。よく見ると丸目じゃなくてアイラインを付けたようなキリッとした目つきになっていたり、トレッドが広がってフェンダーが張り出していたりと、意外にスポーティーな印象もあります。

全長3,630mm×全幅1,685mm×全高1,530mmということで、ガソリン車との比較では全長・全幅ともに60mm拡大されています。それでもやはり一般的な国産コンパクトカーより小さく、日本の道路事情にもマッチする非常に扱いやすいサイズといえます。

500e Pop、500e Icon、500e Openという3種のグレードが用意されており、各種装備をバッサリ省いたPopは受注生産扱い。差額と機能差を考えても、実質的には固定式ガラスルーフのIconと電動開閉式ソフトトップのOpenの2択に近いのかな?

この車はOpenグレードで、ガソリンの500Cと同じように「上だけ開ける」「後ろまで全開け」といったスタイルの使い分けができます。構造上、フルオープンにすると後方視界が大変なことになるのでハーフオープンが使いやすいかも。

屋根が開くチンクには初めて乗せてもらいましたが、車高の低いクーペベースのオープンカーとは違う独特の心地良さがありますし、開けても横から見たら普通のクルマなので視線を気にせずオープンにできそうでいいですね(いや、500eだと珍しすぎてオープン起因ではない視線を感じるかもしれませんが)。

車内を見ると、FIATロゴのモノグラムが描かれた白いエコレザーシートがおしゃれ。ステアリングも同系色のレザー調で、内装はやっぱりチンクらしい雰囲気ですね。

定員は4名ですが、後部座席は広い荷物置きのようなものでしょう。その分、前席は見かけによらず広く(左ハンドルベースの設計ゆえの運転席足元の狭さを除く)、実質2シーターのつもりで使うには快適そう。

セレクトレバーのないボタン式シフトでスッキリとまとまっています。ナビの下の空間にスマホのワイヤレス充電器があったり、コンソールボックスの前方を開くと隠しドリンクホルダーが出てきたり、ボックス内にUSB(AとC)があったりと、こう見えて気の利いた装備があちこちに仕込まれています。

そんな、イタ車なのにまともすぎでは……?と物足りない方もご安心を。「謎に凝った音楽が流れる車両接近通報装置」とか「ブラインドスポットモニター付きなのに電動じゃないドアミラー」とか「なんか出てきたり出てこなかったりするメーター内ナビ表示」とか、愛嬌(謎要素)もいろいろあります。

純正ナビというか総合インフォテインメントシステムの「Uconnect」はなかなか出来が良さそう。写真は各種ウィジェットを配置できるホーム画面ですが、全体的にタッチパネルのレスポンスや操作感がストレスなく仕上がっています。もちろんApple CarPlay / Android Autoにも対応。

下道から都市高速込みのコースで少し運転してみました。電動モーター特有の立ち上がりの鋭さを無理にマイルドに抑える方向ではないため加速は力強く、回生込みの減速も強力(特にワンペダルモードはちょっと慣れが必要なほど)。足は硬めでギャップを乗り越えた際などにはやや気になりますが、ロールが少なく気持ち良くコーナーを抜けられます。

床下に重量物(バッテリー)があるおかげで重心が低いのか、レインボーブリッジのような風の強いところを走っていても全高の割に煽られる感じはせず安定感がありました。それでいて曲がりたいときは機敏に曲がるバランスが絶妙です。

走る・曲がる・止まるの基本の部分では想像以上に楽しい車だと思います。この500eを含めてチンクを3台乗り継いでいるおかしなオーナーいわく(ツインエアMT→アバルト→500e)、EVになっても走りの面でのチンクらしさはけっこう残ってるとか。

先にワンペダルの話をしてしまいましたが、実はワンペダルモードとして独立した設定があるわけではなく、ドライブモードの設定に紐付いています。「NORMAL」モードは普通の車に乗り慣れた人でも違和感のない2ペダル操作、「RANGE」モードはアクセルペダルのみで走行する1ペダル操作となります。

RANGEモードはこの手の機能の常でパーシャルの維持がしんどいので定速で巡航するような場面ではACCと組み合わせるのが無難でしょうが、操作感に慣れて急減速を避けられるようになってくれば割と便利そう。

日産なんかは初期の「e-Pedal」では完全停止まで対応していたものの、今の「e-Pedal Step」では(何がとは言いませんが)低い方のユーザーに合わせて中途半端な機能になってしまいましたよね。しかし、こちらは旧e-Pedalのように完全にアクセルペダルのみで発進・停止できるタイプのもの。まぁ、デュアロジックなんて独特なものを長年売ってきたメーカーが、いまさら“普通の操作”じゃないと乗れない人に合わせるわけはないよな……と、妙な納得感があります。

ちなみにドライブモードはもう1つあって、最後の「SHERPA」モードは航続距離を稼ぐことに特化。モードを切り替えると80km/hのスピードリミッターがかかり、エアコンやシートヒーターも自動で切られるという徹底ぶりです。

アダプティブクルーズコントロール(ACC)はちょっと日本車とは感覚が違うかも。前走車の加減速に敏感すぎるきらいがあったり、渋滞中など車間設定を短くしていると「あれ、これ大丈夫?効いてる?」と不安になる勢いで詰めていったり、初見では馴染めず何度かとっさにブレーキを踏んで解除してしまいました。

それとは対照的に、レーンキープアシスト(LKAS)はよくできている印象。個人的には国産車だとお節介にストレスを感じてすぐ切りたくなってしまう機能なのですが、これはシステム側にハンドルを取られる瞬間の不快感が少ない感じ。車線内でピンボール状態になるような的確でないタイミングでの介入をあまりしてこないことや、介入中の動きが滑らかで自然なあたりが理由かと。

ちょっと厄介そうな点としては、給電口が日本で多いCHAdeMO規格ではなく欧米のコンボ規格のまま入ってきているので、出先で急速充電をするには変換アダプタを持っておく必要があるとか。

とはいえ、このサイズで何気に42kWhというリーフ(e+じゃない方)並みのバッテリーを積んでいますし、一番重い500e Openでも車重は1,360kgとEVにしては軽めなおかげで、フル充電からの走行距離は335km(WLTCモード)と十分長いです。

また、これまで運転した他のEVではメーター表示上の航続可能距離が全然あてにならない(踏むと一瞬で溶けていく)と感じていましたが、これは割と額面通りに受け取っても大丈夫そう。基本自宅で充電できて極端に長距離を走らず、チンクのキャラクターに合ったパーソナルなシティコミューターとして使う人なら総合的な満足度は高いのではないでしょうか。

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